『ギリシア神話』 読書目標”とにかく読了 ギリシア悲劇”で、悲劇作品を楽しむためにギリシア神話の理解が必要なために読みました。
石井桃子先生が高学年向けに編集・訳した『ギリシア神話』で、優しさを感じる訳で、大筋を理解する上でとても役立つ1冊
ギリシア神話 Amazon
レビュー
編・訳者の石井桃子さんについて
1907年生まれ、日本女子大英文学科卒業後、「クマのプーさん」「たのしい川べ」「ちいさいおうち」などの翻訳を行い、絵本、創作、評論と、子どもの本の世界で仕事された方。
「ノンちゃん雲に乗る」で文部大臣賞を受賞。長年にわたる児童文学への貢献により、菊池寛賞を受賞。
翻訳には、あの「ピーターラビットの絵本シリーズ」などがある方です。
本書について
長年児童文学の分野で活躍された著者が高学年向けに『ギリシア神話』を編集・訳をされた本書は、その訳は非常に優しく丁寧で、スッと入ってくる感じで本当に読みやすいものに仕上がっていました。
本書は『ギリシア神話』のオリュンポス12神をはじめとする神々の話、ペルセウスやヘラクレスやアテナイの王のテーセウスといった英雄たちの話、有名なトロイア戦争、戦争後のオデュッセウスの帰国の苦労などの話で構成されています。
英雄たちというのは、ジョーゼフ・キャンベルが示した”貴種流離譚”の話で展開されています。神話の時代から今も続く人間の関心のそのモデルがここに表されているんだなという思いを強くなりました。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教には、「ノアの箱舟」という話がありますが、ギリシア神話にも同じような話があります。
●ギリシア神話におけるノアの箱舟的話し
人間たちがお互いに争い合う時代となり、その様を見た主神ゼウスがそんな人間たちを滅ぼしてしまえと、大雨を降らせて大洪水を起こさせます。ここで信仰心篤く心優しいデューカリオンと妻のピュラの2人が乗った小さな舟だけが助かったという話です。
この大洪水というのは恐らく各地で発生し、それが神話の一エピソードとして伝えられ続け、のちに聖書においてもそれが展開されて、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教へと受け継がれていったのだと思います。このエピソードを知って、他の神話、特にユーラシア大陸以外の地での神話などはどうなんだろうという興味がわきました。
トロイア戦争について、本書を読むまであまり考えてなかったのですが、トロイア戦争におけるオリュンポスの神々がどちらを味方するのかということについてなるほどと思うことができたことです。
トロイアの王子パリスが、女神ヘラ、アテナ、アフロディテの3人の中から最も美しいものを選ぶように言われたときにアフロディテを選んだことから、二人の女神ヘラとアテナを怒らせてしまいます。これにより女神ヘラとアテナはギリシア側を応援し、アフロディテはトロイア側を応援するという図式になり、神々たちも両陣営を後押ししながら戦争が展開していくのです。ここについてはそれほど意識していなかったことを本書で明確に意識できました。
様々な逸話が収録されていますが、石井桃子先生のその編集と訳のおかげでたいへん読みやすく仕上がっているギリシア神話です。入り口としておすすめな1冊です。
(本書より、古代ギリシアとその付近の地図)
〈書籍データ〉
『ギリシア神話』
編・訳者:石井桃子
画 :富山妙子
発 行 :のら書房
価 格:2,000円(税別)
2000年11月30日 初版発行
本書は、あかね書房により1958年に発刊された『ギリシア神話』を復刊したものです。