#580 レビュー 『ソポクレース Ⅱ ギリシア悲劇全集1 』岩波書店 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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2024年の読書目標”とにかく読了 ギリシア悲劇”アイスキュロスの次はソポクレスの悲劇をで『ソポクレース II ギリシア悲劇全集(4)』を読みました。

 

 

トロイア戦争関連とへーラクレース伝説をネタにした、主人公などの心の動きを味わうことがポイントだなと感じるソポクレスの悲劇

 

ソポクレース II ギリシア悲劇全集(4)

絶版 新訳決定版 ギリシア悲劇全集 全14巻揃 岩波 古典劇 ギリシア哲学 思想 芸術 喜劇 ニーチェ プラトン アリストテレス

 

  レビュー

ソポクレスⅡは、「アイアース」「トラキーニアイ‐トラキースの女たち‐」「エーレクトラー」「ピロクテーテース」で構成されています。

 

「アイアース」「ピロクテーテース」は、トロイア戦争でギリシア側で出陣している題名の人物についての悲劇が、「エーレクトラー」はそのトロイア戦争後にギリシアに戻ってきたアガメムノーンの悲劇の後の仇討ちが題材となっています。「トラキーニアイ」は直接はトロイア戦争とはまったく関係ないヘラクレスの話です(間接的には関係があります。劇中では間接的にも関係ありませんが)。

 

「アイアース」 女神アテーナ―の恨みを買った思い上がりによる悲劇

トロイア戦争10年目、ギリシア側の英雄アキレウスが戦死したのち、その遺品の武具をアイアースとオデュッセウスが争い、オデュッセウスに軍配があがり、アイアースはこの判定に激昂して正気を失いながら、アトレウス家の二人(アガメムノーンとメネラーオス)やオデュッセウスや将兵を殺害しようしますが、それを知った女神アテーナ―がギリシア軍の家畜をギリシア将兵と思いこませ、アイアースはその家畜の群れを次々に血祭りにあげます。

 

この惨劇についてギリシア軍の家畜を殺したのがアイアースであることを知った側室のテクメーッサとアイアースの部下たちは大いに嘆いているところで、ついに正気を取り戻したアイアースが、テクメーッサらがとりなしをし、異母弟のテウクロスが予言者カルカースの言葉をもって急いでアイアースの陣に戻ってくる中、そのどちらも効果はなく、自らの行為を恥じたアイアースが自害をするという悲劇です。

 

正気を失いながら、恨みを買った女神アテーナ―によって、ギリシア将兵と思いこまされた家畜を殺害して、意気揚々のアイアース。しかしそれがアガメムノーン。メネラーオス、オデュッセウスらではなく家畜だったと知り、自らの行為に恥じるアイアース。その心の動きを味わうのがこの作品となっています。

 

「トラキーニアイ‐トラキースの女たち‐」 愛を守りたい妻のその想いが夫殺しの悲劇を生む。

オイカリアの町を征服したへーラクレースが、使者をトラキースに派遣し、妻のデーイアネイラらに帰国することを伝え、そのときにオイカリア皇女のイオレーを捕虜に連れて帰ることを知り、デーイアネイラが自分よりも若いイオレーに夫へーラクレースの愛が注がれることを知り、その愛を引き留めるためにしようとしたことがへーラクレースの死へとつながる悲劇となる話です。

 

デーイアネイラは自分への愛よりも、若きイオレーに愛が移ることを危惧したとき、以前にへーラクレースが自分を暴行しようとしたケンタウルス族のネッソスを殺してくれた時、そのネッソスがへーラクレースの愛を得たいと思うならば、この薬を使うようにと渡されたものを思い出して使うことにします。デーイアネイラにとっては”愛の妙薬”と思ったはずが、それは毒薬でした。

 

へーラクレースに愛の妙薬ならぬ毒薬が塗りこまれた肌着が、デーイアネイラから届けられ、それを身につけたへーラクレースは死の苦しみを味わうことになります。そのことを知らされたデーイアネイラは良かれと思ってした行為が最悪の結果を招き、自害を選びます。

 

へーラクレースも二人の間の子のヒュロスに、イオレーと結婚することと自分を積み上げ薪木の上において火葬することを求めます。母を失い、父には焼くことを命じられとこの悲劇の一番の被害者と言えますが、愛を失いたくないがゆえに、愛を求めるがゆえに招いたへーラクレース一家の悲劇という作品です。

 

「エーレクトラー」 父アガメムノンの仇討ちsideエレクトラ

アイスキュロスでは「オレステイア三部作」の「コエーポロイ」が同じネタの悲劇になります。アイスキュロスでは、アガメムノンの子のオレステースが主人公ですが、こちらはその姉のエーレクトラーが主人公となります、

 

トロイア戦争から戻ってきた父のアガメムノーンが母のクリュタイムネーストラーとその情人のアイギストスによって殺害され、アイギストスが王権を握る中、母とアイギストスをののしることを止めないエーレクトラーは、当然のごとくに冷遇・虐待を受けます。それでもエーレクトラーは逃がしてやったオレステースがいつか帰国して、父の仇を討って二人を殺してくれるはず”正義の復讐”をしてくれるはずという願いを心の支えに生きていました。

 

この作品の注目は、その復讐劇というよりも、冷遇を受けながらもオレステースが復讐してくれるに違いないその想いを胸に生きるエーレクトラーが、現状を受け入れて生きる妹のクリューソテミスとのお互いに理解しがたい心の距離に悲しんだり、母のクリュタイムネーストラーと激しき衝突したりする心の動きや、唯一の希望の光のオレステースの死を知らされて絶望したり、それがクリュタイムネーストラーとアイギストスを騙して油断させるための策略であったので復讐実行寸前に再会を果たして絶頂に至ったりというその心の動きがメインとなっています。

 

従って、オレステースの正義の復讐としてクリュタイムネーストラーとアイギストスの殺害はあっさりと進行して終わります。描きたいのはあくまでもこの復讐劇における激しく上下動するエーレクトラーの心の動きなので、付録のような扱いです。

 

まさに、父、アガメムノーンの仇討ち side エーレクトラーと言えるものです。

 

「ピロクテーテース」やはり騙せない。その心の葛藤がポイントの悲劇

主人公のピロクテーテースは、「トラキーニアイ」と関係があります。死が迫るへーラクレースは息子のヒュロスに薪木の上に自分を積み上げて火をつけることを命じますが、それができない中、火をつけた方です。このときにへーラクレースよりお礼として弓矢をもらいます。この弓矢は狙ったものは外さないという特別なものでしたというのが話の前提にあります。

 

後に、ピロクテーテースもアガメムノーンやメネラーオスのトロイア遠征軍に参戦しますが、足を蛇にかまれて、その毒による膿の異臭と毒に苦しむ呻きに将兵らが悩まされるので、オデュッセウスの策でレームノス島に一人置き去りにされ、そこで寂しく生きながらえていました。そこが舞台になります。

 

一方の長年続くトロイア戦争で、ギリシア軍が勝利するためには、戦死した英雄アキレウスの子のネオプトレモスの参戦と、ピロクテーテースの弓矢が必要であることが予言として伝えられます。策士オデュッセウスはピロクテーテースの弓矢を得るためにネオプトレモスらとともにレームノス島に赴向くところから話が始まります。

 

勝利の為ならどんな手段(策)でも用いようとするオデュッセウスと、英雄アキレウスの子として騙しなどしたくないがオデュッセウスにいいくるめられて騙しにいくネオプトレモス、何年もの間、蛇の毒で膿んだ足に苦しみながら一人で寂しく暮らすピロクテーテースによりこの悲劇が展開されます。ただこれは悲劇と言っても最終的には騙して経ーラクレースの弓矢を奪ったネオプトレモスはだますことに耐えられず、ピロクテーテースに本当のことを言い、ピロクテーテースもネオプトレモスの真心こもった説得に応じて自らの意思でトロイア戦争に戻ることを決意して迎えの船に乗って終わります。

 

終わり方としては悲劇的ではありませんが、嫌な奴のオデュッセウスの対比として、ギリシア軍に見捨てられ、そして騙されて絶望するピロクテーテースの心の動きと、やはり人をだますことなどできないと苦しみ続けたネオプトレモスのその葛藤を味わうのがポイントだと思います。

 

アイスキュロスやソポクレスの悲劇作品を読むと、トロイア戦争についての知識がないと楽しめないことを強く感じ、ここから先はギリシア悲劇から離れて、トロイア戦争関係について副読本として読んでいこうと思っています。

 

〈書籍データ〉

『ソポクレースⅡ ギリシア悲劇全集4』

編 者:松平千秋・久保正彰・岡道男

発 行:株式会社岩波書店

価 格:4,500円(税別)

  1990年11月26日 第29刷発行

 図書館で借りた当時のデータです。

 
 
 
 

 

 

 

 

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