ヒストリーチャンネルで放送された『まんが日本史』の仏法を日本に伝えるために何度も失敗しながらも渡日した鑑真和上の姿に興味が沸いて『天平の甍(新潮文庫)』を読みました。
仏法を伝えるために鑑真和上の6度に渡る執念の渡日と、その授戒師を日本に連れ帰る使命を受けた普照と栄叡の命がけの任務の苦労が見どころの作品
ありがとうございます!鑑真和上
レビュー
登場人物は、国の渡航の禁を犯し、幾度も失敗して身の危険を晒し、失明してしまってまでも有縁の日本に戒律を授け、仏法を広めるために渡日しようとする鑑真和上。命により伝戒の師を中国で探し出して日本に連れ帰るべく最後まで取り組んだ普照、途中で病に倒れ死ぬ栄叡らの姿にただただ頭が下がる思いでいっぱいの1冊でした。
ときは、聖武天皇の天平期(729~749)頃、平城京の造営などの課役や税に苦しむ百姓らが逃亡して出家してしまったり、僧尼の行状が乱れていたりという状態でした。国として僧尼令も出していましたが、そもそも僧として守るべき規範がなく、戒を授けるための僧不足により自分の誓(自誓)で戒を受けるというものもいる有様でした。
これを解決するべく、当時仏教界で勢力を誇った隆尊に呼ばれた普照と栄叡は、733年の第九次遣唐使派遣で唐に渡り、伝戒の師を求めそして連れ帰ることを命じられ、一大苦難が始まることとなります。
他にも
中国国内から様々なところを歩いて教えを学ぼうとする”戒融”
出発早々からホームシックになるも、唐で妻子を持って帰国しなかった”玄朗”
インドで学んだ唐僧義浄の貴重な仏典の経文を写して持ち帰ることに執念を燃やす”業行”
という僧が、この物語にまた違った一面を与えてくれます。
話は、日本に伝戒の師を連れて帰った普照をメインに展開します。栄叡はどんなことがあっても伝戒の師を必ず連れて帰国する任務を果たすことに拘って、失敗してくじけそうになる普照を引っ張ってきました。一方の普照は、到着当初は確かにその任務の重大さも承知していますが、唐でその先進的な仏教を学びたい思いも強かったわけですが、鑑真和上との出会いとその想い、栄叡の指名を果たす思いの強さ、そして後世のために義浄の経文写しにすべてをかける業行との出会いなどから、当初の思いを見直して取り組みます。
だた、当時の唐では、僧が国を出ることは国禁を犯すことであり、計画するも出発前に唐の役人に捕らえられました。また日本と中国を渡るのも朝鮮半島に百済があるときは、北九州から対馬、朝鮮半島沿岸を北上しながらというルートが取れましたが、日本が支援した百済が唐・新羅によって滅ぼされ、朝鮮半島が新羅によって統一されたことからそのルートを取ることができず、九州から西に一気に大海を突き進むルートしかなく、それゆえに難破する可能性も高く、難破する形で失敗もします。この過程で栄叡は異国の地で病没してしまいます。
しかし、そんな状況でも鑑真和上は渡日をあきらめません。なぜそこまでしてというのは読者の私も不思議ですが、鑑真和上の弟子たちも、恐らく普照らにもありがたくあっても不思議だったと思います。
最終的には、普照は遣唐使船が来るのを待って、それで鑑真和上を連れ帰ることにします。ついに752年に第十次遣唐使がやってきます。普照は大使らに鑑真和上を帰国の船に乗せることを提案します。大使らは唐に願い出ますが許されませんでした。しかしどうにか秘密裏に乗せて、753年(天平勝宝5)年、ついに成功します。ただここで一つ悲劇がありました。普照に経文を写すことの大切さを感得させた業行も経巻とともに船に乗せることができましたが、その船だけが帰国できずに難破・漂流してしまい海中に没してしまったことでした。改めて、日本史で習った遣唐使が命がけの事業だったことを思い知らされました。
鑑真和上が渡日する前の752(天平勝宝4)年4月に、東大寺の大仏開眼供養が行われ、普照の渡唐から20年近くたった今、日本仏教界の状況も変わっていました。先立って唐から道璿という高僧が来日して日本仏教界で指導的な立場に立ち、政治的な意味での伝戒の師の必要性が無い状況でした。
東大寺の大仏の前で戒壇を設け、鑑真は聖武上皇などに戒を授けますが、日本の高僧たちが、鑑真らの唐僧の戒などなくても自誓授戒でよいと排斥しようとする問題が起こり、普照が討論で相手に打ち勝ったので、戒壇院にて鑑真による授戒がそのものたちにも行われたそうで、権威主義な者たちならそんなこと言いそうだと思いながらも、一方でひどすぎるとも思いました。
鑑真は以後10年日本仏教のために尽くし、763(天平宝字7)年、76歳にてお亡くなりになられました。
本書を読み、まんが日本史でも映像で渡日の大変さが分かりましたが、渡日してもその鑑真の授戒を排斥しようとしたことも知り、より一層鑑真和上のありがたさを痛感することができました。
仏法を伝えるため鑑真和上の執念の渡日物語を描いた回レビュー
<書籍データ>
『天平の甍』
著 者:井上靖
発 行:旺文社
定 価:500円
1990年3月25日 初版発行
1990年 重版発行
図書館で借りた本のデータですので、かなり古いデータです。