#493 本レビュ 『ミチクサ先生(下)』 伊集院静 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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明治の文豪、夏目漱石がついに小説を書き始め、亡くなるまでを描いた『ミチクサ先生 下』のレビュー

 

学びたいこと、やりたいことの”ミチクサ”
その”ミチクサ”が小説家、編集者としても現代につづく文学の流れを築いた夏目漱石 

  レビュー

上巻に引き続き、やりたいことに”ミチクサ”しながら進み、ようやくやりたかったこと”小説を書く”から一気に10年少しの間、『吾輩は猫である』から『明暗』までの今も読み継がれる作品群を生み出しながら、鈴木三重吉、寺田虎彦、谷崎潤一郎、中勘助、内田百閒、芥川龍之介、岩波茂雄などの”漱石山脈”を形成していく血を吐きながら鳴くホトトギスのごとく、血を吐きながら作家&編集者として駆け抜けていった夏目漱石の人生が描かれています。

 

松山の高校教師から、熊本の高校教師となり、生徒などに慕われながらも教師生活が嫌気をさしていた漱石、文部省からイギリスに英語研究の派遣を命じられ(イギリス派遣中に正岡子規は病没)、そこでシェイクスピアの作品に触れ、『ハムレット』の主人公の恋人オフィーリアを題材にしたジョン・エヴァレット・ミレイの絵「オフィーリア」からシェイクスピア作品を奥深く味わうことができた夏目漱石ですが、神経衰弱は進み、帰国後は東京に戻って、小泉八雲の後任で帝大で教師となるも、ついに正岡子規の弟子の高浜虚子からの小説執筆の依頼で、たった二週間で『吾輩は猫である』を書きあげ、それを正岡子規が生み出し、高浜虚子に託した句誌『ホトゝギス』にて発表するのは、小説に挑むも挫折した正岡子規に捧げる作品なんではないかと思い、その友情に涙しそうになります。

 

この小説執筆への道の存在として大きかったのが、その文才を見抜いて仕事を依頼した高浜虚子と、漱石の妻の鏡子の存在でした。トラブルメーカーな部分もある妻の鏡子ですが、そんな彼女との夫婦生活が、「I love you」を「月がきれいですね」という訳が今も伝わる逸話や、文豪への道につながっていくさまがこの作品でよく伝わってきます。

 

しかし、なんともいっても大きいのは、上巻からもそうですが、真の友の正岡子規との友情です。漢詩、俳句、小説、落語など様々な文芸でのお互いの刺激しあうことや、二人の関係から展開されていく様々な人との出会いが、正岡子規死後も漱石に影響を与え続けていることが作品を通して表現されていて、お互いの人物を認め合い、励ましあう友情のすばらしさを存分に味わうことができました。

 

ノボさん : 小説正岡子規と夏目漱石 上下』が、夏目漱石と正岡子規の二人のソウルメイトな友情物語の正岡子規サイドなら、この『ミチクサ先生 上下 伊集院 静』は夏目漱石サイドにあたります。両方読むと二人のきずなの強さやお互いの影響の与え方、そして俳句・短歌・小説を近代から現代に続く創作家たちの流れの源流に位置する二人であることが理解でき、子規・漱石人脈というのをたどっていきたいという思いになると思います。

 

この『ミチクサ先生 下』を読了した2023年11月24日、伊集院静先生がお亡くなりになられました。『琥珀の夢』で先生の本に出会い、魅了されて読み進めてきました。お亡くなりになられたのは大変残念です。ご冥福をお祈りいたします。

〈書籍データ〉

『ミチクサ先生(下)』

著 者:伊集院静

発 行:株式会社講談社

価 格:1,870円(税込)

  2021年 11月15日   第一刷発行

 
 
 
 
 

夏目漱石と正岡子規の真友の友情 子規サイドの上巻

夏目漱石と正岡子規の真友の友情 子規サイドの下巻

 

 

 

 

 
 

 

 

 

 

 
 

 

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