頼朝をはじめとする鎌倉武士らの前で義経への思いを歌い踊る静御前の白拍子の畢竟の悲曲の舞に心揺さぶられる『新・平家物語(十九) (新潮文庫)』について
大業のために非情な頼朝に追い詰められていく義経たち
頼朝の前で”あえて”義経への思いを歌い舞う静御前
本書について
この巻は表紙絵の通り、義経の最愛の人、静御前をめぐる話が中心となり、頼朝に追い詰められ、消えてゆく義経主従の逃避行が続いていく巻となります。
西国落ちも船が難破して、四天王寺から吉野へとどうにか逃れてきた義経主従。静とつかの間の燃え上がる恋を楽しむも、吉野においても義経らを差し出すとのことで追い詰められ、ここから厳しい大峯の雪の山道になるので、ついに静と義経の別れとなります。
静御前はその後、鎌倉方に囚われて京に送られたのち、鎌倉に護送されていきます。そこでは頼朝の弟の義経の女ではなく一白拍子の女として扱われ、梶原景時の子などの坂東武者の若い世代らに精神的になぶられます。そのときちょうどその場に居合わされたのが加賀守護の富樫泰家で、これがのちの安宅関の義経一行のあの勧進帳の話の伏線につながる構成となっています。
その静に対して、頼朝・政子夫妻は鶴岡八幡宮にて御家人らの居並ぶ中でその京一の白拍子の舞を求め、静は嫌がっていましたが意を決して踊ります。それは英雄から反逆者、逃亡者に落とした頼朝に対して、”あえて”の義経への愛を歌い舞う畢竟の舞を見せます。頼朝は激怒します。静は非情な頼朝に対して、自分も殺されるだろうからとそれならという舞じゃなかったかと思います。このとき政子に静は義経の子を宿していることを察知されてしまい、生まれたときに男の子であったために、頼朝の指示で生まれてすぐに殺されてしまいます。
ただし、ここから先は西行も絡んでくるのですが、ちょっと救われ展開があります。
頼朝は、自らの大業のためにはかなり非情です。木曽義仲の子どもの義高を殺害指示を出しておきながら、殺害したときの大姫の悲しんでいる姿にその殺害させたものに腹を切らせ、義経については頼朝・政子夫妻で送りつけた御家人の娘について、義経の見張り的存在でもあったので、義経が逃亡してしまうと、その責任として娘の実家の川越氏の領地を没収して誅殺します。この静の子の対応についてもととにかく同じ源氏の血への対応の非情さが際立っている人物となっており、私にとっては読み進めれば進めるほど嫌いな人物です。
静御前の鎌倉でのなぶられ続ける日々の中、義経主従の逃避行は続きます。頼朝は義経を追い詰めていくことを口実に後白河法皇に幕府創設や、守護・地頭の全国設置などを認めさせて、武家政治実現に向けて着々と歩みながら、義経主従を追い詰めていきます。一人、また一人と鎌倉方の網にかかって消えてゆきます。そして頼朝につき、義仲につき、義経につき策に溺れるトリックスター的な存在の新宮十郎行家もついに鎌倉方により捕えられ処刑されてしまいます。義経はどこに逃げてゆくべきか・・・で終わる19巻です。
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