#300 本レビュー『歴史街道 令和5年7月号』の感想 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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大河ドラマ『どうする家康』のひと足お先の家康の命の危機と大きな飛躍を可能とする本能寺の変後を特集とした『歴史街道2023年7月号(特集1「徳川家康と本能寺の変」』について

 

なぜ、司馬遼太郎先生の作品がこれほどまでに世の中に受け入れられたのかを知る1冊

 

  感想や考察

購入した一番の理由は、『三国志』の曹操が好きで、その曹操の特集と、高校時代などに読んでいた司馬遼太郎が生誕100年ということで、そうだったのかと驚いたからです。

 

徳川家康と本能寺の変 その時、何が起きたか

命からがらでどうにか危機を脱出できた本能寺の変からの伊賀越え、その後の大きく飛躍することにつながるがむしろ敗北する可能性も十分にあった天正壬午の乱によって構成された特集で、徳川家康は晩年で自らの人生を語る際にも、伊賀越えについては語らなかったとのことで、天下人になって思い出したくない思い出なのではないかと思わされました。

 

この伊賀越えで、伊賀忍者を従えた服部半蔵が活躍するわけですが、大河ドラマ『どうする家康』においても、服部半蔵自身は自分は忍者ではないと否定するセリフを言うのが何度かありますが、こちらでも服部半蔵自身は忍者ではないがと書いてあり、服部半蔵は忍者ではないというのが今回の大河からのトレンドのようです。

 

天正壬午の乱については、織田方が旧武田領の支配がしっかり根付く前にこの本能寺の変が起こったことが一つ大きな要因だったと思います。そこで武田旧臣を取り込んでおいて生かした家康が、北条と比べて兵力が圧倒的に少ない中でも、甲斐と信濃にしっかりと絞り込んで外交力を駆使して乗り越え、ほぼ完勝の形で終えた流れが分かります。一方の北条がその領土拡大について上野なのか、甲斐なのか、北信濃なのかについて集中しきらずに進めてしまったこともその甘さも影響していることが分かります。

 

三国志の真の主役・曹操

三国志演義をもとにした作品群などでは、悪役扱いを受ける曹操ですが、政治家としても、軍略家としても、文化人としても一流のスーパーキャラクター、天は何物を与えたのかというくらいの大人物の曹操について、政治手腕、戦略・戦術、文化面での評価を改めて読むことができるのが良かったです。

兵法といえば「孫子」が有名ですが、現在読まれる「孫子」は、魏武注孫子(魏の武帝の曹操が注釈をつけた孫子)で、後世への影響のすごさを知らされます。

史実と物語の違いを、「三国志」で見つめ直すのもいいのではないかと思う特集でした。

 

生誕100年!司馬遼太郎「これまで」と「これから」

私が好きな作品はやはり高校時代に読んだ『竜馬がゆく』です。他の作品も読んだこともある中で、司馬遼太郎先生は歴史の主流よりも、傍流的存在ゆえに既成秩序に挑戦して、のちに主流に大きな影響を及ぼす存在を描かれるのが好きだな~となんとなく思っていましたが、それは司馬遼太郎先生の歩んできた人生が、「正系」ではない”傍流的”な人生大きな影響を及ぼしていることがこの特集で分かり、改めてその視点を意識して読み直してみたいと思いました。

 <傍流的な人生>

  旧制高校から帝国大学に行きたかったが、数学が大の苦手で二年続けて旧制高校の受験に失敗して、大阪外国語学校に進んだ。

  復員後の職業キャリアも、終戦直後に多く生まれては倒産した新興零細紙から産業新聞社の記者で、朝日新聞などの最大手紙の新聞記者ではなかった。

 

面白かったのは、司馬遼太郎の歴史小説がどのように国民作家レベルまで受け入れられたのかという考察でした。普通にファンとして読んでいた自分にとっては全く意識していませんでした。

 

その理由としては

 ●高度経済成長に沸き奇跡の成長をつづける日本において、既成概念を打破する主人公の姿が当時の日本にあっていたこと

 ●文庫化されることにより、いつでも手ごろな価格で司馬作品が入手できる状況

 ●通勤時の読書にその文庫化がコンパクトなので助かること

 ●司馬の「余談」の効用司馬作品の特徴の作品中で「余談だが・・・」で、詩的背景や文明論などが語られて、物語の没入感が途切れさせられてしまうスタイルがその通勤時で断片的にならざる得ない読書法に適合したということ

 ●「余談」が司馬作品を楽しみながら歴史という教養を身につける上で役立つこと

 

などがその要因であるという分析はなるほどと思うものでした。

『坂の上の雲』などは、明治の明るさをかなり感じるものですが、「明治の暗さ」も描かれていることや、それ以上に司馬の”傍流的”な人生と、第二次世界大戦で学徒出陣で陸軍に徴兵されて戦車隊に配備された戦争経験での「昭和の暗さ」を問い続けた司馬のその”時代の暗さ”について、”司馬遼太郎の「これから」”として今の閉塞する日本や不安定な世界を考えるための視点としてその作品を読む意味があるのではと思いました。

〈書籍データ〉

『歴史街道 令和5年7月号 第423号』

発 行:株式会社PHP研究所

価 格:764円(税別)

発 売:2023年6月6日

 

 

 

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