「ドMなんです」
美人で知的な彼女は、自分のことをそういう。
しかしどうして、彼女はかなりのSであることに最近気がづいた。自分でMと言っているわりには、真からの従順さが感じられないのである。
表面では従順である素振りを見せるが、自分が気に食わないことがあると、とたんに反抗的になり、周りを巻き込んですごいことになる。明らかに、自分で自分のコントロールができていない。
だからだと思うが、彼女はいまだ独身。最初は、彼女の見栄えの良さから寄ってくる男性も、少しつきあうと、すぐに離れていく。
彼女は、自分がコントロールできなくなると「過呼吸」になって、周りを心配させる。私も初めのうちは、心配していたのだが、あるとき別の方からこんな一言をいわれた。
「都合よく「過呼吸」になるよね」
実は、この方もこの症状が出ることがあるらしい。曰く、過呼吸になったら自分ではどうすることもできなくなるのだそうで、なりふり構わない状態で倒れるという。
しかし、彼女は「なりふりを構って」倒れていた。皆の居る前で、なるべく都合よく倒れる。倒れて身動きがとれないところを、心配して抱き抱えてくれる男性の一部始終を、冷静に観察していたりする発言を何度も見聞きしていた、その方の一言になるほど!と思った。
冷静に彼女を観察していると、「自分に注目してほしい」そんな言動が目に付く。
彼女は、ものすごく気配りをする。表面だけみていると、頼りになる優しい女性のように感じる。が、それは優しさからの気配りではない。
(やってあげたの!私に感謝して!!)
という、自己主張からの気配りなので、相手が感謝しないばかりか、意見されると途端にイライラしはじめる。
(せっかく、やってあげたのに!)
と口にできない怒りが、イライラを増長する。
(私のことを何にもわかっていない!くやしい!)
そんな気持ちが透けて見えてしまい、彼女がだだをこねる子供にしか見えなくなる。
察するに、彼女のインナーチャイルドが反応しているのだと思われる。
これに気がつくまでに、かなりの時間を費やした。
普段はそんな素振りを見せない良い子なので、じっくり付き合わないとわからないのである。
自分を認め、全てを受け入れてくれそうな人に、甘えたいのであろう。普段、良い子でいるぶん、素の自分を思いきり出したいのだと思う。自分もそうだったので、その気持ちは痛いほどわかる。
しかし、彼女と向き合って付き合っていこうとすると、この態度の前で言いたいことが言えなくなる。そんな目に何度かあってきて、ようやくわかった。
彼女は、だだをこねながら、周りをコントロールしているのだと。
自分のいいなりになるように、無意識でコントロールしているのだと。
自分の間違いを指摘されることを、死ぬほど嫌がる彼女。間違いを指摘されれば、周りをコントロールして、なんとか自分に従わせようとするのだから、それでMな訳がない。
彼女はMなようでいて、無意識下ではSな女王様なのである。
彼女は、自分自身がSな女王様だとは、露ほども思っていないであろう。あえて自分を貶めるような人間関係ばかりを選んで、不幸な人生を歩んでいるあたりはM気質そのもの。だが、自分自身が否定されるような人間関係の中で、無意識下にあるS気質が頭をもたげると、大型台風並みのトラブルメーカーに変身する。そうして、「私は不幸な人間」なんだ…と聞いてくれる人を捕まえて訴え続ける。
これでは、本音のお付き合いは難しい。
本音を口にするたびに、トラブルに巻き込まれていたら、言いたいことも言えなくなってしまう。どんなに、客観的に冷静に言ったとしても、彼女自身の受け取り方次第では、どうしてもトラブルに発展してしまうのだから。
ただし、こうなってしまうのはそれなりの事情が彼女の中にあるからだと思う。
それは、彼女の生い立ち、ご家族のことなどを見聞きしていると、なんとなくわかる。
表面は相手に従っているような素振りをして、心の中は、まったく相手に従っていないということは、ようするに本心を隠して生きているということだ。
きっと、そうやって生きるしか、彼女には術がなかったのだと思う。
生きづらさをかかえて人生を送っていたであろうことは、容易に想像できる。自分自身も経験してきたことなので、彼女の苦しさは理解できるのだ。
本心を言えたなら、彼女はどれだけ楽になれるか。
しかし、彼女は本心が言えない。言ったら嫌われると思っているのであろう。
嫌われることが怖くて、本心を口にするだけの勇気がないのだと思う。
彼女は、自信がないのである。
どんな自分でも愛されているという自信がないのだ。
あれだけの見目と頭の良さを持ちながら、劣等感のかたまり。
それは、自分自身を愛していないということになる。
彼女が成熟した大人の女性になるためには、その劣等感を払拭しなくてはならない。どんな自分でも「ありのまま」に受け入れ表現できるようになれば、言いたいことも言えるようになる。その時、彼女は心からの幸せを得られるにちがいない。
どんな人でも、Mという気質もSという気質も両方もっているものだ。MだけとかSだけとかという人はいないと思う。
だから、「ドM」な人というのは「ドS」であり、「ドS」な人というのは「ドM」なのではないかと私は思う。
「ド」がつくほど、心の闇は大きいのだろうなぁ・・・
彼女のような人を見るたびに、そう感じてしまう。
だからといって、私にどうにかできる問題でもない。
その心の闇と向き合えるのは、自分自身でしかないのだから。
成熟した大人になるためには、ここは避けては通れぬポイントだと私は思う。そうしたのちに、精神的な自立が果たせるのであろう。
彼女には、成熟した大人の女性になれるよう、頑張ってほしいと思う。
本音が言い合える関係に、いつかなれることを心の底から祈っている。