あれ?おかしいな。サン・マルティノって村、ここに看板があるのに、今日の目的地であるサモスまでの地図に載ってないぞ。
…いや、まてよ、ここにある。なぜか、地図の別ルート上にあった。いつの間にか別ルートに来てしまったのか…?
間違える箇所は無かったハズなんだけど…。
よく分からないが、ここまで自分たちが歩いてきた道を信じつつ、前に進む。
山の上の、廃村のように朽ちかけた村を出ると、突然、茂る樹々の合間から、下にある町が見えた。
いや、山の森の中から見えたのは町というより巨大な修道院であり、その威容はまごうことなきサモスの修道院であると初めて見る目にも明らかだった。
かなりの大きさで、どっしりと、神々しく見えた。
僕たちが山を降り、安堵しながらサモスの修道院の横を通りかかった時、すでに18時半だった。そして、この村への到着を祝福するかのようにゴオン、ゴオンと鐘が鳴った。
ただでさえ大きいのに、音と照明によって荘厳さが増している。
修道院に併設されているアルベルゲ(巡礼者用の宿)のオスピタレイロ(世話人)はスペイン語しか話せないおじさんだった。
僕らは、自分たちがこの巡礼路に来ているのは、「ルナ・デ・ミエル(ハネムーン)」であることを伝えた。
すると彼は、これは参った、というような、そして同時に、嬉しくてしょうがない、というような顔をしながら自らの両手の先を合わせてそこにキスをし、僕らそれぞれに手を伸ばし、その喜びを身体で伝えた。なんだか非常に嬉しかったらしい。
やはりこういう理由で歩く人は珍しいようで、宿泊者の登録をしながらも、「君たち、オカシ食べるか?」とか言ってクッキーをくれたりした。
前述したように、このアルベルゲは修道院併設の宿なので、となりのサモス修道院での夜のミサに出席した。司祭が5人も登場して聖歌を歌うスペシャルなものだった。
そして、いつものようにペレグリーノ(巡礼者)だけが全員祭壇の前に呼ばれ、特別の祝福を受けた。
流れとしては、そこまででいつも通りなのだが、僕らペレグリーノたちに祝福をしてくれた神父さんが片付けようとした矢先、突然、ミサに出席していたアルベルゲのオスピタレイロが、神父さんに待ったをかけた。
そしてなんと祭壇の神父さんに近づき、その耳元に何かを囁いた。
神父さんはそれまでの神妙な顔つきから一変、まるで一般人のように驚いたような顔をしてから、「Si.(分かりました)」と頷き、僕と妻に手招きし、近寄らせた。
なんとオスピタレイロのおじさんは、ハネムーン中である僕らに特別の祝福をしてくれるよう、神父さんに頼んだのだった。
カトリックでもない僕らに対して、それはムチャなお願いではと思ったが、言葉通り神父さんは僕らを祝福し、他のペレグリーノたちも微笑んでいた。
それから、神父さんも他のペレグリーノたちも修道院から去り、祭壇以外の照明も消された。
その場にオスピタレイロと僕と妻の3人しか居なくなったとき、彼は僕らを祭壇に上がらせ、「光の下に行きなさい」と言って、写真まで撮ってくれた。
こんなことってアリか。
こんなことしてもらっていいのか。
ただ戸惑うばかりだったが、僕らは彼の好意を受け入れることにした。
まるで結婚したのが自分の孫かのように特別扱いしてくれる彼がいったい何者なのか、ホントにただの宿の世話人なのか、なんだか分からなくなってきたが、僕も妻もただただ感動していた。
心からの喜び、そして、見返り無しの親切を目の前でしかと見せてもらった。このオスピタレイロの名前はエミリオという。翌朝エミリオと一緒に撮った写真は僕の宝物だ。
エミリオのような、チャーミングであったかい男に僕もなりたいものだ。
これから、最後の100㎞エリアに入ります。
雨と森林の多いスペインの端に向かい、なにが待ち受けているのか。
次回さっそく、意外な者に森で出会います…
本日
ラ・ファバ~サモス