銀行で不動産売却の担当をしていたころ、ヤクザのような人がよく売買に来ていた。
僕の方は銀行の物件を売る係なので、とにかく片っ端から支店のビルとか保養所とか社宅を売りまくっていた。が、ヤクザとか外国人とか宗教関係には売らない方針なので、基本的にはお帰りいただくのだが、その日もヤクザのような人が物件の購入交渉に来ていた。いろいろ物件説明をしながら、価格交渉の段になり、
「もう少し安くなりまへんか?」とヤクザAが言う。
「いや、びた一文まけられまへんな」と言う僕。
「おい、なんや銀行員のくせにその言い方は。」とヤクザB
「銀行員のくせにとはなんやねん。余計売る気なくしたわ。もう帰ってもらえますか?こっちが真剣に説明してるのにバカにしてんのか、なあ、おい、コラ、はよ帰らんかい」と大声で言う僕。ヤクザ相手ばかりなので、その頃はほとんどヤクザ言葉になっていた。
応接室の扉を開けて「はよ帰らんかい」と帰らそうとしたのだが、
「お前では話にならん、上司を呼べ」とヤクザA
扉をバシーンと思いっきり締めて、次長のところに向かったが、本人が席にいない。大声の応酬で逃げたのだろう。さっきまでいたのに。…と見回したところ、はるか遠くの別の次長のところにいるのを発見。走って呼びにいったら逃げるように廊下に向かう。しかし足の早い僕は廊下の端っこに追い詰め、
「次長、すみません、なんかあの人達が上司を呼べと言ってるのですが?」と言うと、なんと、
「僕は上司だけど、この担当はキミが責任者でキミ以上の責任者はいないことにしてくれよ」と言うではないか、
「いえ、ちょっと顔を出してもらうだけでいいんですけど…」と言ったが、
「うるさいな。いないんだよ、僕は」と真っ赤な顔をして怒るのだ。
しかたないので、部屋に戻って「上司はいないことにしてくれ、と言ってます」とヤクザ2名に報告したところ。キョトンとして「あっはっはっは」と笑うではないか。「なんか面白いこと言いましたか?」と聞いたものの、それっきりでそれで相手は帰ってくれた。
今、文章にしてもなんだかピンとこないが、その時はなんか面白い雰囲気だったのだろう。
銀行を辞めようと思ってた時期なので、すごく自由に仕事ができた。本音でやればどんな人の心でも動かせるのではないかと思う今日このごろであります。
その後、その上司は奈良の某支店長になったのであります。銀行っていい加減なところだなとつくづく思います。