高速道路を、車は雨に打たれながら走っている。

白くたれこめた雲が視界を狭くする。

フロントガラスには無数の水滴。

ワイパーの動きがそれに健気な抵抗を繰り返す。


甘美なラブソングが流れるカーステレオ。

外界の嵐とは裏腹に、車内はその甘い歌声以外、

しんと静まったまま時が滞留している。


私は音楽に耳を傾け、ただ雨を眺める振りをしていた。

車窓にはゆがんだ夜景が流れてゆく。

執拗なほど愛を語る歌に、私は苦笑する。


この夜の高速が、いつかの過去に繋がっているという気が、

不意にした。

こんなふうに雨の中を走り、無言で音楽を聞いていた日が、

いつかにもあったような気がする。


私は運転席を盗み見た。

一心に前を見ている瞳。

鼻筋の通った横顔が、薄暗い空間に映えて美しく見える。


私の無言を、疲れていると思っているのだろうか。

いずれにしろ、この時間を許してくれている、

この人は優しい。


私はよみがえってきた記憶に身を沈める。

今よりも若かった。

運転席にいた誰かも、今の私より若かった。

雨は今日と等しく強かった。

視界は狭く、愛の歌は普遍的な言葉で紡がれて、

同じように、私は言葉を失った。


きっとあの日も、私は運転席を盗み見たのだろう。

真剣な横顔を独占して、

雨が一生降りやまず、

この道が果てることなく続けばいいと、

そんなふうに思っていたのかもしれない。


夜。

私は無言を裂く言葉を捜している。

美しい鼻筋のあなたへ伝えたいことを。


弾かれてゆく雨粒。

遠くで、きらりと雨雲が光った。


つり橋を渡るように一日一日を生きている

決して誰も傷つけないようにと願うことが

最も破滅的な未来を呼び寄せていることに

私は気づかないようにひたすら目を閉じる


もし 本当に私が眠りをむさぼる世間離れした馬鹿者であれば

ああ、一体どれほど 幸福だったろう


明日が来ることに緊張している

恐怖さえ覚えながら

この 安泰な夜が少しでも長く続きますようにと

言葉を欲しながらただ

すがるように 抱きしめあっている




深い哀しみと、同容量のいとしさを交えた、旅に出る。

あなたの近くで、あなたを思い、

あなたを思う、私を思う。


とてつもなくまぶしい光の中で、

私は影よりも濃い暗黒を見つめる。


神よ神よと祈っては、

絶望が重なり合うように降りてくる気配を感じる。


残酷な笑い声と強烈な痛み。

あなたを愛することの陽だまりのような喜びと清新さ。


私は愛のさなかで死を思う。

海の真上で土のにおいに巻かれている。


だけどここ以外、私はどんな場所へ移動できる?


ここにしかいられない、その運命。


神様、もう少しだけと、いつまでつぶやいていられるの?


すべての終わりは、もうここにある。