貧乏は芸術だ?
---佐賀のがばいばあちゃん
2006年製作/日本
配給:ティ・ジョイ
監督:倉内均
主演:吉行和子
1980年代に一世を風びした漫才コンビ「B&B」の島田洋七が自身の少年時代をつづった同名ベストセラーを映画化した。
舞台は、昭和30年代の広島。父親を亡くし、母親に女手ひとつで育てられていた明広は、佐賀で暮らす祖母のもとに預けられることに。
極貧の厳しい状況にあっても、独特の人生哲学で気丈に切りぬけていく"がばいばあちゃん"との暮らしの中で、
明広はさまざまなことを学んでいく。
ベストセラーになった小説の冒頭は、こんな会話で始まる。
「ばあちゃん、この2、3日、ご飯ばっかり。おかずはないの?」
ばあちゃんは、あはははと笑って「明日は、ご飯もないよ」と答えた。
オレとばあちゃんは顔を見合わせると、また、大笑いした。。
なんという幸せ感だろうか。これは、昭和30年の一般家庭であった。
家にあるものは、大きな真空管ラジオが1台。まだ冷蔵庫もテレビもなかった。
夏には、スイカを井戸に吊るして冷やしていた。
クーラーもない。部屋には蚊帳を吊って寝た。
何もなかった。でも、どこの家でも祖父母がいたし、夕飯を食べた後は、幼い子供たちに本の読み聞かせをしてくれた。
兄弟が多くて、おかずの取り合いが繰り広げられた。でも、またその兄弟喧嘩は楽しかったのだ。
子供たちは、鼻水をたらし、垂れた鼻水をぬぐうので、袖がテカテカに光っていた。
どの子供も十分な栄養を摂ってはいなかった。
たいていの家には何も揃っていなかったが、笑顔は絶えなかった。どの子供も目が輝いていた。
--それが、令和になって、家の中にも外にも物があふれている。各部屋ごとにエアコンがある。
どの家にも、おばあちゃんもじいちゃんもいない。
子供の目は死んだように輝いていない。
どんな極貧生活にあっても持ち前の人生哲学でポジティブに乗り越えるばあちゃんを、ベテラン女優の吉行和子が人間味たっぷりに熱演する。あふれる愛情と明るくたくましい生き様で、人生の指針を指し示すばあちゃんのパワフルな姿に元気をもらえる。
この国では、なんでも揃っている。
だが、ないものが一つだけある。それは、希望だ。---作家村上龍