「ホルムズ海峡の自衛隊派遣を必要ないと思っている人間が、50パーセントを越えてるらしいな」

 ジョージが、健人と酒を飲みながら言った。

 ジョージは仕事で日本に滞在しており、健人とは同僚だ。

「まったく、不思議な人種だ、日本人は」

「そうだな、石油不足のときはあれだけ騒いでおいて、その石油を守るために自衛隊を出すとなったら反対だなんて、矛盾してるよな」

 海外で仕事することが多い健人は、日本人でありながら日本を客観的に見ている。

 海外ではテロの危険性もあり、常に身辺に気を配っていなければならない。

 いざとなったら、我が身は自分で守るしかないという考えが身に付いている。

 だから、ジョージの言葉になんの反発も覚えず納得した。

 自衛隊は派遣するな、だけど今の生活水準は守りたい。

 とても矛盾しているのだが、多くの日本人は矛盾と思っていない。

「長く平和が続いたら、こうなるのか?」

「それもあるだろうけど、そうしたのはおたくの国だよ」

 第二次大戦後、アメリカは日本の若者を骨抜きにするため、教育を含めあらゆる油断を講じた。その結果が、今の日本だ。

「日本人に文句があるなら、昔の自分達の政府に言うんだな」

 そう言って健人は、皮肉っぽく笑った。

 ジョージはなにも返さず、ただ肩をすくめてみせた。

「近頃の若いもんは」

 私の口癖だ。

 昭和の厳しい時代を生きてきた私には、今の時代が生温く感じる。

 ちょっとしたことでパワハラ?

 私が新人の頃は、「出来なかったら死ね」とまで言われていた。

 今、そんなことを今言おうものなら、パワハラどころで済まないだろう。

 ある日、テレビを観ていて退職代行のニュースが取り上げられていた。

「まったく、近頃の若いもんは」

 腹立たしくて、テレビに向かって毒づいた。

「入社早々辞めるなんて、世間を舐めてるのか。それに、辞めるんだったら自分の口で言えよ。まったく、近頃の若いもんときたら」

 それまでソファに座っていた中学生になる孫娘がスマホから目を離し、私を睨みつけてきた。

「おじいちゃん、そんなことを言うなんて老害ね」

 冷たい口調ではっきりと言った。

「昔は昔はって、今は時代が違うの。若い人のことをなにもわかっていないくせに、おじいちゃんの価値観を押し付けないで」

 普段は私に甘えてくる孫娘が、こんなことを言うなんて。

 私は驚いて固まってしまった。

 それから、孫娘は私に寄り付かなくなった。

 俺の人生、ずっと闇だった。

 両親は兄貴ばかりを可愛がり、幼い頃から俺は虐げられてきた。

 そのため無口になり、小学校、中学校、高校と、友達もできずクラスメイトの視界にも入らなかった。

 俺にあるのは、勉強だけだった。

 ひたすら勉強して、両親と兄貴を見返したかった。

 勉強しながら、自力で大学に行くためアルバイトも頑張った。

 寝る間も惜しんで、勉強とアルバイトに明け暮れた。

 両親は、兄貴にはやりたいことをやらせたが、俺には高校までは行かせてやるが、後は勝手にしろと言ったのだ。

 俺は頑張って、現役で東大法学部に受かった。

 兄貴は、しがない三流の大学にしか行けなかった。

 東大に受かった途端、両親は手の平を返したように俺を褒め称えた。

 人間なんて、勝手なものだ。

 あれだけ兄貴を可愛がっていたのに、行く大学が違っただけで態度が変わる。

 俺は家を捨てて、一人暮らしを選んだ。

 俺に家族はいないと思い定めて。

 あれから、十年が経つ。

 両親と兄貴がどうしているのかは知らないし、知りたくもない。

 今、俺は自分で人生に光を灯している。