雪がちらついてきた。

 ホワイトクリスマスだ。

 彼女と過ごす、初めてのクリスマスイブ。

 これまで何人かの女性と付き合ったことはあるが、結婚を考えた女性はいない。

 しかし、彼女は違う。

 出会ったときから、俺の心を満たしてくれた。

 この女性とだったら、一生一緒に生きていける。

 そう思った。

 彼女の気持ちはわからない。

 だが、そんなことを考えたってしようがない。

 素直に、自分の気持ちをぶつけるだけだ。

 恰好をつけてもしようがない。

 今日、プロポーズしよう。

 断られたらショックだが、それはそれで受け入れるしかない。

 サプライズはしない。

 真摯に自分の気持ちを述べるだけだ。

 不器用かもしれないが、それが俺のやり方だ。

 無理をしたって長続きしない。

 本当の俺を認めてくれるかどうかだ。

 今の俺の心は、この雪のように真っ白だ。

「今日は、三国志の続きです」

 えっ? やるんだ。

「また、これかよ。いい加減にしてくれよ」

 なんだかこの番組は、石田と俺との両方の機嫌をとっているように思えてきた。

「三国志で有名なのは、曹操ですね。三国志時代の戦争は、対峙してから決着がつくまで、何年もかかることがありました。それで苦労するのが食料です。何万、何十万という兵が毎日腹に入れる食料は、想像を絶する膨大なものです」

 まあ、そうだよな。

「曹操は、一部の三国志には悪の親玉のように書かれていますが、実際は武力よりも知性派だったと言われています。だから、兵の食料を調達するのはもちろん、駐屯していおる兵士たちに農業をやらせました、これを、屯田制と言います」

「それがどうしたんなら」

 おい、石田。また文太になってるぞ。

「そして、曹操という人物は不思議な人で、寡兵で大軍に向かう戦は強くても、逆の場合によく負けています。その最たるものが、赤壁の戦いですね」

 おお、映画で観たぞ。

「赤壁の戦いに勝てば中華をひとつにまとめることができましたが、それに敗れて三国の時代を形成してしまったのです」

「こんなの、謎でもなんでもないだろ」

 それを言うな、石田。これまでも謎でも不思議でもなかったんだからよ。

 ずっと曇っていた俺の人生に、光が差した。

 これまでは、あまりいいことがなかった。

 入った会社はブラックだし、彼女ができてもすぐに振られていた。

 ずっと、世の中を呪っていた。

 しかし、すべては自分のせいだと、ある時気付いた。

 深い理由はない。

 唐突にそう思ったのだ。

 それから、俺はこれまでの人生を振り返った。

 いたらぬ点が、多く見えてくる。

 自己中心で、勉強が嫌い。

 そのくせ、優越感に浸りがたる。

 これで、いい人生を送れるはずがない。

 大いに反省した。

 それからは、人を立てるようにした。

 違う価値観も認めるようにした。

 そうすると、転職もうまくいき、よい会社に恵まれた。

 新しい彼女もでき、振られることもなく楽しく交際している。

 プロポーズをして、涙を流して喜んでくれた。

 考え方を変えるだけで、こんなにも違う人生になるのか。

 気付けてよかったと、今しみじみと思っている。