アイヌとヘイト~差別に罰則を!杉田水脈に逮捕状を!~ | ブロッギン・エッセイ~自由への散策~

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド,ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば,水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬編『証言 水俣病』)

 

 ヘイトスピーチ解消法が罰則規定のない理念法であることは前回書いたが,24日で施行から5年となったアイヌ新法(アイヌ施策推進法)も,アイヌを先住民族と明記したものの,差別への罰則規定はなく,アイヌの権利も具体的に明記していない。これはザル法というか,2007年に国連の先住民族権利宣言に賛成した手前,「アイヌを先住民族として大切にしていますよ」という,国際社会に向けた立法のポーズにすぎなかったということだろう。そういう中身のない法律であるから,施行されてもアイヌへの差別や権利侵害は後を絶たない。

 

 先月,サケ漁は「先住権」だと訴えた裁判は退けられた。アイヌを先住民族と認めながら先住権を保障しないとは,この国の立法府も司法府もどういう二枚舌なのか。この国では明治以来の同化政策が未だに清算されていない。というか,このアイヌ新法は,アイヌの同化を進めるための「北海道旧土人保護法」の延長線上にあるといってよい。だから,文化面での施策は進める一方,その裏でアイヌ語使用,伝統的な狩猟や土地の権利といった先住権はなかったものにする。

 

 また,差別の禁止は謳ってはいるが,どうやって禁止するのか,つまり肝心の処罰規定がない。その点はヘイトスピーチ解消法と同じで,要は国家として差別を禁止するつもりがないというか,差別を放置し容認する国家のスタンスが滲み出ている。

 

 私はアイヌや在日コリアンへの民族差別が拡大している背景には,こういう日本政府による法制度的な差別が強く影響していると見ている。いわゆる官製ヘイト,「上からのレイシズム」である。法制度だけでなはい。国会議員の立場を利用して繰り返される差別発言も,「他民族を差別しても許されるのだ」という機運を社会に醸成し,「上からのレイシズム」を押し進める原動力になっている。社会の下層にもレイシズムは広がっているが,その「草の根のレイシズム」は「上からのレイシズム」によって方向づけられ,それと呼応しながら発展しているように私には思える。だから「上からのレイシズム」と闘い,これを粉砕する必要があるのだ。

 

 その「上からのレイシズム」の急先鋒として国会に送り込まれたのが杉田水脈だったわけである。彼女は落選中の2016年に国連の女性差別撤廃委員会に参加し,日本から訪れたNGOグループの女性たちに対して,「ハッキリ言って小汚い」「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「存在だけで日本国の恥さらし」という侮辱的な投稿をSNS上に上げた。こうした差別言動を続ける中で,杉田は比例で衆議院議員に再び当選。こういう差別主義者が国会に戻ってきたことに多くの人が慄いた。
 

 当選後も杉田に反省や改心の様子は見られず,むしろタガが外れ,開き直ったように差別言動を繰り返している。先に書いたように,これは杉田個人の問題ではなく,差別を助長し再生産する「上からのレイシズム」として機能していることが問題なのである。現に杉田の差別的な書き込みが国会で取り上げられると,ネット上に誹謗・中傷の投稿が飛び交った。権利保護を訴えるマイノリティの人たちを震撼させ,声を上げづらくさせた行為は,人権侵害以外の何ものでもない。この点で,先日逮捕された「つばさの党」半グレ集団よりも杉田の方がよっぽど罪が重い。議員辞職,公民権停止に値する案件だと思う。

 

 こういう上からのレイシズムに対して,私たち市民はもっと強く批判の声を上げ,対抗言論を繰り広げていくべきだろう。杉田に「民族衣装のコスプレおばさん」と中傷された大阪府在住の女性3人は昨年,大阪法務局に人権侵犯被害を申し立て,認められた。

 

 だが信じがたいことに,杉田は人権侵犯が認定された後も,差別発言を繰り返している。先ごろは,上の動画にあるように,アイヌ文化振興事業で公金不正流用があったとしてアイヌ関係者を「公金チューチュー」と揶揄した。事実を歪曲して伝えただけだが,アイヌの人たちに対する差別・偏見や排外主義を煽った責任は重いと言わざるを得ない。確かな事実は,杉田自身が国会議員として税金を吸い尽くしている「公金チューチュー」だということだろう。他者を貶めるつもりで放った発言が跳ね返ってきて自らの胸に突き刺さっている。

 

 こういったアイヌ差別の根本には,知識・教養の絶対的な不足と,目の前にある現実を直視しようとしない不誠実な態度がある。知識や事実を重視しないから,マジョリティである日本人に都合が良いように事態を解釈し,他民族を攻撃して社会から排除しようとする。前回取り上げた飯山あかりもそうだった。イスラームや中東の知識が決定的に不足しているのにイスラム思想研究者と称し,ひどく偏った見方でイスラエル=米国を擁護するとともに,パレスチナ国家を否定する。また,日本ではヘイトスピーチもクルド人差別もないと言い張る。

 

 このように知識が不足し,現実を捻じ曲げて伝える人物は,国会議員などの政治家になってはいけないのである。同時に,私たち市民ももっと深くアイヌの歴史や文化を学ぶ必要があると痛感する。なぜなら同化政策の歴史やアイヌ差別の現実を知っているならば,アイヌの先住権を求める声や運動が国民の間でもっと広がっていいと思うからだ。私たちはアイヌ民族が受けた苦難と,和人(日本人)がアイヌに与えた加害に真摯に向き合い,歴史認識を深め,アイヌの権利保護について踏み込んで議論すべき段階にあると思う。それこそが国会議員の本来の仕事であろう。その意味で杉田水脈は国会議員としての資質をまったく欠いている。直ちに議員辞職すべきだ。

 

 アイヌの歌人バチェラー八重子の短歌は,アイヌの歴史や文化を理解するうえで大いに助けになるだろう。八重子の代表的な歌が下である。

 

 ふみにじられ ふみひしがれし ウタリの名

 誰しか これを 取り返すべき

 

 苛酷な同化政策によって言葉も土地も,存在そのものまでも奪われてきたアイヌの歴史がこの歌には刻まれている。そして,これは必ず取り返さなければならない,というアイヌの叫びが聞こえてくるようだ。「取り返す」戦いの主体はもちろんアイヌであるが,差別の加害者であった和人の側も今こそアイヌと連帯して戦うべきだだろう。

 

 なお,24日は大道寺将司の命日でもあった。彼はアイヌ居住区の近くで育ち,幼いころからアイヌ差別を目の当たりにしてきた。それが彼の反差別・反帝国主義の思想に影響を与えたことは容易に想像できる。彼は中学時代の同級生でアイヌ紋様の刺繍家チカップ美恵子さんを悼んで,次のような美しい句を詠んだ。「色鳥(イロドリ)」とは秋に渡ってくる美しい羽色の鳥のことである…


 色鳥のカムイユカラを逢ひ織りぬ  棺一基 大道寺将司全句集より)