先日,上のBSフジ「プライムニュース」を観たのだが,やっぱり浅田彰はまともなことを言っている。で,やっぱり先崎彰容はダメだと思った。この2人セットの出演は今回で3回目か4回目だと思うのだが,その都度,このブログでもコメントしてきたから,今回も気づいたことを書き残しておこうと思った。観た後の印象や感想はこれまでとそんなに変わらないのだが,今回で2人に対する私の評価が完全に定まったように思う。ちょっと格が違いすぎるから,もうこの2人の共演はやめた方がいいのではないかと思った。
前にも書いたと思うが,先崎は常に「防衛三文書」などの話を持ち出して日本の国防力強化の必要性を説く。彼の議論はいつも,そこに行き着くのである。上の番組ではわざわざ「思想史家」という肩書きがついているが,それを名乗るにはあまりにも視野が狭くて,思慮が浅い。本当に思想史を学んできたのかという疑念が湧く。「寛容」の名の下にロシアや中国,イスラエルなどの権威主義国家を擁護して,市民からの批判的言説を実質的に解体しようとする。世界の国家権力に甘いのである。と同時に市民の視点がない。市民は多様な存在だが,そういう多様性に理解がない。国家中心的というか国家主義的な思考だから,そうなる。こんな人物に「思想史家」などという肩書きをつけるのはやめた方がいい。
防衛力強化にこだわる先崎に対して,浅田さんは中国や北朝鮮の脅威を煽りすぎるのは良くないと反論していた。浅田さんの方が,危機管理にしても国際情勢にしてもバランスの取れた判断をしていると思った。
浅田さんは,時間的にも空間的にも広いパースペクティブで社会を考察し,市民や労働者に深い理解を示す。歴史や哲学・思想の話をしながらも,地べたで必死に生きている人々のことが視野に入っている。再分配の大切さを説き,ストライキやデモなどの民衆運動の意義を正しく評価している。社会の底辺や端っこに追いやられた人たちを見捨てない懐の深さが浅田さんにはある。上の動画ではカットされていたが,「自分は低身長で最下層民だった」とか「みんな最下層民だというところから出発した方がいいんですよ」とも言っていた。先崎とか宮台真司や東浩紀、大澤真幸みたいなエリート主義じゃない所が良い。
浅田さんが論壇に出てきたのは80年代,バブル前夜だった。浅田さんはポストモダン(ニューアカデミズム)の先がけとしてもてはやされたが,私はあの軽さや無責任さ,「小さな物語」的な脱構築主義に馴染めず,戦後民主主義やマルクス主義といった重たい「大きな物語」の方が性に合った。私の中では,「浅田彰」は戦後民主主義からもマルクス主義からもケインズ左派からも逸脱した反動的な学者という位置づけだった。浅田さんが左派に近づいたのか,私が変わったのか,それとも時代が変わったのか――いずれにしても今の浅田さんは信頼できると,上の番組を観て思った。
決定的だったのは,番組の最後の方で浅田さんが,「歴史は闘争の歴史だ」とか「歴史は階級闘争の歴史だ」というヘーゲルやマルクスの言説を引き合いに出して,弁証法とは「楽しく喧嘩するルールなんです」と視聴者にわかりやすく説いていたことである。そして「闘争」の意義を強調する。すなわち,「ルールをもって楽しく闘争しよう」「ストライキなど楽しく闘争する社会が良い」というのが,この日の浅田さんの結論的な主張だった。
「楽しく」というのが浅田さんらしいが,それにしても浅田さんの口からこんなド真ん中の闘争論が出てくるとは思わなかった。浅田さんが80年代に口火を切ったポストモダンは,むしろ資本や権力との「闘争」(「大きな物語」)から「逃走」することが思想的課題ではなかったか。やっぱり浅田さんが変わったとしか思えない。「ストやデモが普通にある社会が良い」なんていうストレートに真っ当なことを,日本のポストモダン的な知識人は言わない。連中はむしろ脱構築を口実にしてストやデモを相対化し,民衆の命がけの闘争を押しつぶす思想的役割を果たす。だからポストモダンは資本側や権力側と相性が良く,国家装置であるマスコミにもてはやされる。
その意味では先崎はポストモダン的な潮流に棹さす学者といっていい。番組でもストやデモなど民衆の闘いを評価する発言はもちろんないし,資本や国家権力に対する怒りも批判もない。まあ,テレビも国家装置だから,番組としては先崎のような学者の方が使いやすいのだろう。先崎は番組最後の提言コーナーで「寛容」と書かれたフリップボードを出していたが,グローバル資本や権威主義に「寛容」な学者など要らない!
それに対して,浅田さんは番組最後で「処方箋を求めるな」と書いたボードを出して,「苦しみながら,矛盾を抱えながら生きていくことが”生きる”ということなので,処方箋なんてものはない!」と言っていた。まったくその通りだと膝を打った。最初から最後まで浅田さんの話には納得させられた。時間があれば是非,上の動画2つ目(後編)の最後の2~3分だけでも見てほしい。う~ん,浅田彰は〈逃走する思想家〉ではなく,〈闘争する思想家〉として見直した方がよいかもしれない…