「不妊手術強制 国を提訴へ」 | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 今朝の中日新聞一面に載った記事だが,旧優生保護法にもとづいて本人の同意なく不妊手術を強制した問題について,宮城県の女性が国を提訴する。被害の深刻さから,声を上げたくても上げられない被害者は多くいるはずだ。被害者が声を上げられないのをいいことに,国はこの問題に誠実に向き合おうとしない。国連から法的救済をするよう勧告を受けているにもかかわらず,国は「当時は適法であった」として聞く耳を持たない。当時は適法であったから問題はないという態度は,優生保護法に対する反省を全く欠いているとしか言いようがない。優生保護法が認めた障害を理由にした不妊手術は,人権侵害以外の何物でもない。これを「適法」などと言えるのは,いまだに優生思想を克服できずに,人権感覚がどうしようもないくらいに麻痺しているからだ。公共の福祉のために障害者はそういう目に逢っても構わないのだという国の認識枠組みは,今も優生保護法施行当時と基本的に変わっていない。だから「適法」などと平然と言える。このように優生思想に対する根本的な反省を欠く中で,今後,何か大きな災害や食糧難,戦争などの危機的事態が発生すれば,真っ先に国家によって抹殺されるのは障害者であろう。そういう過ちを犯さないためにも優生思想は克服しなければならないのである。障害の有る無しにかかわらず,全員が平等に生きる権利を持っているわけだから。

 ドイツやスウェーデンなどは,過去の法律・政策を国としてしっかりと振り返り検証し,何が問題であったかを明確にした上で謝罪・補償を行っている。日本でも優生保護法は改正されて無くなったではないかと言われるかもしれないが,その実体,すなわち「障害者は要らない」という優生思想は生き残っている。それは,国がいつまでたっても実態解明・謝罪・補償を行おうとしないからだ。国が放置した優生思想が,昨年の障害者大量殺傷事件を引き起こした。植松被告の獄中書簡・獄中ノートなどを見ると,障害者抹殺の思想に今も確固たる信念を持っていることに驚かされる。彼の中で優生思想は少しも揺らいでいないのである。今も「きちんと説明すれば半分くらいの人はわかってくれるはず」という彼の感覚は,彼一人のものではないであろう。今の社会の空気を一面では確実にとらえている。優生保護法を是(ぜ)とする優生思想は,今も日本の至る所で彷徨(さまよ)っているのである。
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 自民党の憲法改正草案にしても,あれは人権条項を削除することで優性思想を復活させようとするものだと私は睨んでいる。改憲勢力が目論んでいるのは,9条の改正(自衛隊明記)ももちろんあるだろうが,それよりもむしろ個人や人権の尊重を抹消することに真の狙いがあるのではないかと思う。それは優性思想の復活と表裏一体をなす。優生思想を克服できない段階で改憲が行われればどうなるか。個人の人権は蔑ろにされ,国家や軍や官僚組織が優先される憲法になる。改悪された憲法の下で,優生思想や差別主義にまみれた法制度が作られていく…。

 基本的人権をあつく保護した今の憲法を,人権意識の欠片もない自民党の連中が変えるのは危険極まりない。優生思想がはびこる中で改憲なんて百年早いと私は言いたい!

 これまでも何度か書いたように,国がこの強制不妊手術の実態を明らかにし,被害者に謝罪と補償を行わない限り,優生思想の根絶にはつながらないと思う。このままいけば,この国はナチスばりにT4作戦やホロコーストに突き進んでいくであろう...。