タル・ベーラ | Electronic Dolphin Eats Noise

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空論上の九龍城

2010年5月のmixiでのBlogの転載。

タル・ベーラ驚愕の二本立て。
新作『倫敦から来た男』と、2000年の『ヴェルクマイスター・ハーモニー』をアートビレッジセンターへと観に行って参りました!

タル・ベーラなんて、恥ずかしながら今回の『倫敦から来た男』で初めて知った監督なんですが、いやー、まさに驚愕の映像体験でありました。

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倫敦から来た男』はあの“メグレ警視”シリーズで有名なジョルジュ・シムノンが75年も前に発表した同名小説が原作。のフィルムノワール。
ある強盗・殺人事件を目撃し、不意に大金を手にしてしまった主人公が辿る数奇な1日をじっくりと描きます。
オープニングから溜息すら出すのも勿体無い程の冷たいモノクロームの長回し…これで一気に引き込まれ、あとは為すがままに身動き取れなくなるのでした。
この監督…この前作の『ヴェルクマイスター・ハーモニー』でも長回しが話題を呼んだらしいのですが、今作でもカメラはじっくりと場を人を追い、私達はあたかもその場で一緒に呼吸をしてるかの如き錯覚に囚われます。長丁場での役者陣の微妙な機微や場の空気・光の振動から様々な思惑や変化が漏れてくる辺りは土壇場!
ティルダ・スウィントンを始め役者陣の圧倒的な存在感が、モノクロームの映像美に程好く溶け込んでいく辺りは監督の繊細な豪腕が唸っております。
このモノクロームの映像に拘るあまり現像に使用された特殊なフィルムへの負担が激しかったらしく、上映中に切れて中断なんてトラブルもありましたが(初体験!)、それだけに報われた映像体験でありました。

そして上記した『ヴェルクマイスター・ハーモニー』。
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…何だこれは!?
145分37カット!これは映画を知らない人でもどれだけ凄いかお判りでしょう。それも実験映画などではない、劇映画で。
勿論そんなので奇を衒うなんて作品などでは決して無いし、37カットで撮るにはそれだけの理由があるのを、観た方は納得している事でありましょう。
ある平凡な田舎町に現れた移動サーカス。やがて街は不穏な空気で覆われて行く。そして…
ヴェルクマイスターの奏でた12音階、移動サーカスが連れて来た巨大なクジラ、街を扇動する“プリンス”と呼ばれる存在…様々な構成要素に我々は翻弄され、そこに深読みをせざるを得ないのでありますが、そんなのをごっそりと根こそぎ持って行く映像の洪水にさらわれる快楽と恐怖…
そうだ、これこそ映像、いや映画の持つ本来の力なのだろう。それはもうプリミティヴなまでの。
映画館で観ると言う行為が持つ、時に我々の人智さえ越えてしまう“体感”をここまで取り戻させてくれる映画も近年稀でありましょう。
タル・ベーラ…恐るべき才能であります。

『ヴェルクマイスター・ハーモニー』の更に前作の7時間半を越える1994年の『サタンタンゴ』に出逢うのが怖い…
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