死にゆく妻との旅路 | Electronic Dolphin Eats Noise

Electronic Dolphin Eats Noise

空論上の九龍城

この愛の前にはどんな法も倫理も無効である。

死にゆく妻との旅路 [DVD]/三浦友和,石田ゆり子


借金を抱え、親族にも多大な迷惑を掛けている三浦友和氏演じる主人公。
彼に残されたのは一台の古いバンになけなしの50万円、そして末期ガンの妻・・・
親族からも借金からも逃れる様に旅に出た彼に、自分の身体も顧みず付いていく妻に石田ゆり子嬢が見事なまでに憑依している。

一回りも歳の離れた妻(故に彼女は旦那さんを“おっさん”と呼んでいる)の、その一途な愛は時に常軌を逸しているかの様にも映る。どう考えたって病院で治療を受けてた方が長く一緒に生きられるだろう。
が、しかし、その一方で銭湯で逸早く会いたいが為に旦那より先に出てきちゃったりする姿なんかを見ちゃえば、そこに確りと満ちている愛を見つけ、強いシンパシーを感じるのだ。

さて旅路とは言うものの足は今にも潰れそうな古いバン。
旅費も50万。
石川を飛び出たものの、遠くはここ姫路ぐらいまでだ(私の街でのロケに軽い興奮を覚えた)。
旅先での仕事を探せども50を過ぎた主人公を雇う先はない。
やがて旅費も気力も底を尽き、二人はバンで暮らす日々に辿り着いてしまう。

バンでの生活は、それは壮絶で、ガンに蝕まれて行く妻に何も出来ないで苦悶する主人公の想いと、ただ一緒にいたいだけなのにそれすら叶わぬ妻の願いで満たされる様は痛い。
でも、その痛さこそ二人の濃密な愛の証明なのだろう。
目を背ける訳にはいかない。

この物語は事実をベースに作られている。
そんな所以もあってか二人が旅路へ至る道程や、二人の周囲との関係性は映画では軽く触れられるだけで端折られている。
カメラは只二人の愛にのみフォーカスされ、我々はその強みと深みに埋没出来るのだ。

そして鑑賞後心に残るのは、例えば初めてのデートにはしゃぐ妻であったり、旦那に髪を切ってもらい喜ぶ妻であったり、アイスクリームに目がない妻であったりetc.
そう、妻の愛おしさなのである。
だからこそラストでの旦那の嗚咽が胸に迫り、我々はこの(ともすれば色眼鏡で見てしまいそうな)事件の本質に迫れるのである。

三浦友和氏の本作の試写会での“石田ゆり子は腹立たしいほど美しい”発言は、彼女が最高のキャスティングであった事を物語っている。
それぐらい、ここでの彼女は愛おしい・・・