「近所の方の話ですが…有沢さんの家の納屋の中から、妙な声が聞こえたので、なんやろう思うて覗いてみたらしいんです。ほしたら光男さんと凪子ちゃん、裸で抱きおうとったらしくて……」
下坂はすべてが腑に落ちた。光男の行方不明事件と凪子殺害事件は1本の線で繋がっている!
光男は自分の意志で蒸発したのではなく、事故でもなく、淑子に殺害されたとみて違いない。光男の遺体は実家の庭に埋められているのではと、下坂は推理した。山や谷や川はその当時消防団や住民が捜索したはずなので、それで見つからなかったということは、庭のどこかに埋められている可能性が高いのではないか。
もう一度、下坂と石村は初子に会うことにした。
「初子さん、光男さんが行方不明になった時、淑子さんの様子に何か変わったことはありませんでしたか?」
「何やら妙に目が座って、落ち着いとった感じやったな」
「その他には何か思い出せませんか?」
「庭に花を植え始めたのを覚えとります。光男が帰ってくるのを祈って植えとるのだとか……。この女にも情ちゅうもんが残っとるんかいなと思いました」
「それはどこですか?」
「ほら、あそこに咲いてますやろ? あれです、淑子が植えたのは」
初子が指差した方向を見ると、紫色の釣鐘の形をしたきれいな花が一面咲いていた。
「何という花ですか?」
石村が聞いた。
「たしかカンパニュラという花だそうで、淑子と凪子が引っ越したあとも、私が気に入って育てとるんです。淑子は嫌いじゃが、花に罪はないけん」
「大変申し訳ありません。この花の下を掘ってもよろしいでしょうか?」
「はぁ? どういうことですか?」
下坂は自分の推理を初子に述べた。
初子は、少し悲しい表情を見せたが、小さく頷いた。
下坂と石村は初子からスコップを借り、花の下を掘り起こし始めた。一時、掘っていると、何か白いものが土に塗れて姿を現した。それは人間の白骨だった……。おそらく白骨化した光男だろう。
下坂は地元の警察を呼び、歯型の確認やDNA鑑定などを依頼した。
下坂と石村は、本庁に帰って報告したあと、淑子の家を訪ねた。
「淑子さん、光男さんの実家に行ってきました」
淑子は何かを覚悟したように、一瞬目を伏せた。
「実家の庭から、人骨が出てきました。今頃、鑑定していると思いますが、あなたの口からお聞きしたい。光男さんの白骨体ですよね?」
「…………」
「そして、光男さんを殺害して庭に埋めたのは、淑子さん、あなただ」
「何を証拠に、そんな……」
「初子さんから聞いたのですが、光男さんがいなくなってから、庭に花を植えましたね」
「それがどうかしましたか」
「花の名前は、カンパニュラ……花言葉は『後悔』『謝罪』『感謝』などがあるらしいですね。あなたは、光男さんを殺害したことを後悔し、謝罪したいと思っている。ですが同時に、感謝もしている。そういう思いを込めて、埋めた遺体の上にカンパニュラを植えたんじゃないですか?」
淑子は両手で顔を覆って、泣き始めた。
(次回、最終回)
