短編小説 凪子3(全10話) | 秋 浩輝のONE MAN BAND

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はじめに言葉はない

 下坂が和子に聴取した主な内容は、凪子の男性関係についてだった。
「有沢さんは誰かと交際してましたか?」
「いえ、そういった話はしたことがないのでわかりません」
「有沢さんを恨んでいる人に心当たりは?」
「まったくありません」
「他に何か気になったことは?」
「特には何も……あっ、そういえば、昨日……」
「昨日、何かありましたか?」
「凪子に電話があったんです」
「誰から?」
「柴崎さんという男の人からです」
「何を話していたか、わかりましたか?」
「それが、小さな声だったので、何も聞こえませんでした。
でも、そのあと、凪子は元気がなかったような気がします」
 下坂の目がキラッと光った。
「柴崎さんという男性は、どちらの方ですか?」
「凪子が以前勤めていた大帝国印刷の人だと思います」
「ほう、以前勤めていた会社の人から、どんな用事があったんでしょうね?」
「さあ、それはよくわかりませんが、以前、つき合っていたという噂は聞いたことがあります」
「柴崎さんは独身ですか?」
「いえ、たぶん妻帯者だと思います」

 下坂と後輩の若い刑事石村邦彦は、岡野出版と大帝国印刷に行くことにした。ふたりが岡野出版を訪ねると、岡野社長が沈痛な面持ちで出てきた。岡野はだいたいの状況は和子から報告を受けていた。岡野社長や数人の社員に聞き取りが行われたが、トラブルや浮いた話はまったく出てこなかった。仕事は真面目、大人しく優しい女性だったという話がほとんどだった。

    下坂と石村は早々に岡野出版をあとにして、大帝国印刷に向かった。もちろん柴崎に事情聴取するためだ。和子の話がほんとうだとすると、不倫関係によるトラブルがあったに違いない。

「どう思う、石村?」
 石村は下坂の同じ大学の後輩だ。
「そうっすね……。見たところ、仏さんは美人だし、男心をくすぐるタイプじゃないかと」
「あぁ、そうだな」
「男女関係のもつれじゃないっすかね? 部屋はきれいだったし、遺体が丸裸というのも……」
「あぁ、俺もそう思う」
「学生時代に聞いた話ですが、いわゆる『不倫体質の女』ってのがいるらしくて、一度、写真を見たんですが、その女、仏さんにソックリなんすよ」
「なんだって!」
「あ、いや、顔が似てるんじゃなくて、雰囲気というか、なんかその…醸し出すもんがあるじゃないっすか?」
「あぁ、なるほど」

(続く)

 


 



2015.3.11