和子は凪子のアパートに一度も行ったことがなかったが、履歴書に書かれている住所から、だいたい察しがついた。50ccのミニバイクで、午前10時過ぎに和子は凪子のアパートに着いた。
凪子の部屋の呼び鈴を数回押したが、何の反応もない。ドアノブをゆっくりと回す……ドアは施錠されていなかった。そっと中に入った和子は、「凪子! 居るの?」と声を出したが、やはり物音ひとつしない。「凪子、上がるわよ」と言いながら、和子は靴を脱ぐ。
部屋は洋間の8畳で、手前に4.5畳のキッチンが付いていた。一人暮らしするには手頃な物件だ。凪子は綺麗好きらしく、キッチンは綺麗に片付けられている。奥の洋間に入っていく。やはり、とても綺麗に片付けられているが、あまり女の子っぽい可愛らしいイメージはない。ヌイグルミも置いていないし、壁に絵や写真も飾られていない。飾り物の少ないシンプルな部屋は、凪子のイメージとは何か違う。色彩的にはモノトーンで無機質な感じ。和子は以前、同じ雰囲気の部屋に入ったことがあるような気がした。それが誰の部屋だったのかは思い出せない。シングルベッドが南側の窓に平行に置かれている。ベッドには凪子の姿はなかった。
よく見ると、ベッドの横のフローリングに、人の足の膝から下の部分が見える。膝より上には毛布がかけられていた。凪子が倒れているのだろうか、和子は慌てて駆け寄った。毛布を剥ぎ取ると、凪子が仰向けに横たわっていた。衣服や下着は一切つけておらず、全裸だった。
「凪子!」
和子は凪子の体を揺すった。体は硬く、体温が感じられない。横向きになっている凪子の生気のない顔を見た。目は開いたままで、額には血がべっとりと付いている。
「きゃああああ!」
よく見ると、壁や床にも血が飛び散っている。和子はがたがた震えながら、自分の携帯で110番をプッシュした。10分もしないうちに、警察と救急車がやってきた。救命救急士は凪子の首筋に指を当てたが、すぐに首を横に振った。
和子は同僚の死亡事件の第一発見者となってしまった。状況はどう見ても殺人だろう。中年の刑事、下坂真一に根掘り葉掘り、色々なことを訊かれたが、和子は頭がぼうっとして、その時何を喋ったか、あとから思い出そうとしたが、よく覚えていなかった。
凪子の葬儀は司法解剖されたあと行うとのことで、一週間後に決定した。社内はずっと重苦しい雰囲気で、笑い声ひとつ聞こえない。凪子のデスクの上には和子が買ってきた花が飾られていた。和子はなかなか仕事に集中出来ず、時折、凪子のことを思い出しては泣いていた。
(続く)

