短編小説 凪子1(全10話) | 秋 浩輝のONE MAN BAND

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はじめに言葉はない

6年くらい前に書いたベタな小説です。2時間もののサスペンスドラマを意識して書きました。完全なエンタメというか、文学的な香りはまったくありませんので(笑)、気楽に読んでください。それではのちほど!!

 

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 有沢凪子はどちらかというと無口で、女子会に出ても積極的に発言するタイプではない。かといって、別段、性格が暗いというわけではなく、いつもニコニコ笑いながら人の話を聞き、相槌を打っているような女だった。

 小柄だが、胸が大きく、愛くるしい顔をした凪子は、同じ会社の男たちに人気があった。会社全体の飲み会がある度に、凪子を口説き落そうと数人の男たちが、彼女の周りに集まってくる。だが、凪子は人の気をそらさない話し方で、うまく男たちの間を潜り抜けていた。 
 会社で凪子と一番親しい女友だちの山木和子は、そんな凪子に対して、いつも軽い嫉妬を覚えていた。凪子のことが嫌いなわけではない。男に媚を売ることはまったくないので、同性から嫌われることはなかったのである。和子も10人並み以上の顔立ちをしていて、外見上、決して凪子に引けを取っているわけではない。話題の豊富さや話のうまさは凪子より遥かに優っているのに、なぜかいつも凪子のほうがモテるのだ。
 その理由のひとつとして思い当たるのは、和子よりも凪子のほうが胸が大きいということだろうか。所詮、男なんてみんなスケベなのだ。どんなに真面目そうな男でも、可愛くておっぱいの大きな女を見ると、即、頭の中で服を脱がせ始めるのだそうだ。そして、そのグラマラスな裸身を想像して、心の中でニンマリしているらしい。よほど気に入れば、夜の「おかず」に昇格する。ほんとうに男なんて、しょうもないイキモノだ。

 そういえば、この前の朝礼の時、 凪子は体の線が判るようなピッタリしたセーターを着ていて、胸のカタチがくっきりと浮き出ていたのだが、それをじっと見ていた同僚の鬼頭照男の股間が妙に膨らんでいることに和子は気づいた。同様に気づいた照男の同期の江島修一は、朝礼が終わったあと、同僚たちにそのことをバラしていた。しばらくの間、会社の一角で爆笑が止まなかったことは言うまでもない。そのことを凪子が和子から聞いたのは、その日の昼休みだった。
 凪子は、「え~!」と言って、頬を赤らめた。恥ずかしそうにはしていたが、決して嫌な顔はしなかった。やはり凪子は自分に自信があるのだろうか。和子は、余裕を持った表情の凪子を少しだけ憎んだ。

 凪子が過去にどんな男とつき合ってきたのか、今現在、恋人がいるのか、和子は何も知らなかった。会社内では互いに一番親しい存在だったが、凪子はプライベートなことは一切明かさなかったからだ。社内の女子会で恋愛話になっても、凪子はただ微笑んでいるだけで、何も喋ろうとはしなかった。
 風の噂だが、凪子は以前、不倫をしていたという話を、和子は聞いたことがある。凪子が入社したのは2年前だが、中途採用だった。以前は全国的に有名な大帝国印刷に勤めていた。不倫の相手は、その時の上司で、それが明るみに出たため、会社に居られなくなったのではないかという噂だった。あくまで噂の域を出ないので、本当のことは解らない。

 ある日、会社に中年の男の声で電話があった。電話を取ったのは、事務の仕事をしている和子だった。
『もしもし、有沢凪子さんをお願いしたいのですが』
「どちらさまでしょうか?」
『柴崎と申します』
 和子はどこかで聞いたことがある名前だなと思いながら、凪子に電話を取り次いだ。
 凪子は少し表情を曇らせながら電話を取った。そして、今までに聞いたことがないような思いっきり小さな声で、受話口を塞ぐように凪子は話し始めた。経理を担当していた凪子の席は、和子の席の隣りだった。和子はずっと聞き耳を立てていたが、僅かに聞こえた言葉は、「え……そんな……」「チャリで……」くらいだった。いったい何の話をしているのか、さっぱり解らない。

 和子は柴崎が誰なのかを思い出した。凪子が大帝国印刷から今の会社に変わった時、書類の件で、大帝国印刷から電話を受けたことがあった。その時の相手が、総務課の柴崎と名乗っていた。電話の様子から、凪子の以前の不倫相手に違いないと和子は確信した。暗い表情で電話を切った凪子は、そのあとずっと元気がなかった。
 翌日、凪子は無断欠勤をした。凪子が無断欠勤したことは一度もなく、いたって真面目な仕事ぶりだった。和子は社内から凪子の携帯に電話を掛けてみたが、電源が切れていた。
 和子は凪子のアパートに様子を見に行くよう、社長の岡野誠一に命じられた。会社は社員が38人しかいない小さな出版社で、社名は岡野出版、年商は約1億円程度だ。今の岡野社長が一代で築いた会社である。岡野社長はバイタリティがあり、社員の面倒見の良い人情家だ。給料の安いこの会社で、なぜ和子が8年も勤め続けているかというと、人情味のある岡野社長のことが、人として好きだからである。

(続く) 

 

 

2015.3.9