短編小説 死にものがかりvol.3(改訂版) | 秋 浩輝のONE MAN BAND

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はじめに言葉はない

「ところで、あなたのことを聞かせてくれるかな?」
「えっ、俺のこと?」
「そう、あなたは今まで地獄に堕ちてきた人間とは異質な匂いがするの。 どんな人生だったのかなって」
「えーと、名前は田崎純也、享年32歳、独身、 職業は…なんだっけ?  忘れました」
「自分の仕事、忘れたの?」
「思い出せないんです。たぶん、人と折衝する仕事だったとは思うんですが……」
「実は、あなたのこと、仕事とか、少しだけ知ってるの。同じ職業の人は、ここにもいるけど、その人とはぜんぜん違うタイプなので、私たち『死にものがかり』の間では、ちょっとした話題になってたんだ」
「ほんとうに思い出せないんです。教えてください」


「純也さん、あなたはね……殺し屋だったの。だから『人と折衝』じゃなくて、『人を殺生』してたの」

「はぁ? ウソでしょ? ウソだと言ってください。俺をからかってるんだと」
「ほんとうよ」
「でも、俺は最後に自分で自分を……」
「そう、最後には自分を追いつめて、首吊り自殺したの。その時、記憶が飛んだみたいね」
俺は絶望のあまり、膝から崩れ落ち、地面に頭を何度も打ち付けた。額からは血が滴り落ちる。
――殺し屋だったのか。いったい何人殺したんだ?  自殺してなくても、どうせ死刑じゃないか。離れ島に渡って、他の極悪人と一緒に、
永久に重労働するしかないじゃないか。なにが能天気に地獄めぐりだ! バカじゃないのか、俺は。


「俺なんて、生きる価値のないクズ人間だったんですね」
「人間は大なり小なり、他人の心を傷つけたり、殺したりしながら生きてるものなのよ。 そんなに卑下することはないわ」
「でも、ほんとうに殺すのとは訳が違うでしょう?」
その時、トーマのスマホの呼び出し音が鳴った。
「トーマです。ええ……はい、あっ、そうですか……はい、わかりました」
電話を切ったあと、トーマは俺の目を見つめながら言った。
「純也さん、あなたのことがすべてわかったわよ」
「俺のすべて? あまり知りたくないです」
――どうせ人殺しなのだ。知ったところでなんになる。
「でも、知っておいたほうがいいと思うから言うわね」
「今更、知っても仕方ないけど、冥土の土産に聞いておきます。あっ、冥土はここか」
「純也さんに殺されたかもしれない人間は3人。でも、その中で、直接手を下した人数は不明というか、確率的には1/3…ゼロの可能性もあるみたい」
「はいっ?  意味が解りません」

「純也さんはね、刑務所に勤務していた刑務官で、死刑執行人をやっていたの。日本の場合、絞首刑だけど、刑場の床と連動しているボタンは3つのうち1つだけ。あとの2つはダミー。執行時、3人の執行人が同時に3つのボタンを押すようになってるの。どのボタンが有効だったのか、執行人には知らされないようになってる。自分が直接、手を下したと解ると、ずっと罪悪感が残るものね。で、純也さんは3人の死刑囚の執行に関わったというわけ」
「そういうことだったのか。国の仕事として合法的に殺人をしてたんだ」
「でも、気持ちの純粋な純也さんは、ずっと悩んでいたの。仕事とはいえ、死刑囚が極悪な人間とはいえ、人が人の命を奪っていいのかって。ひょっとしたら冤罪の場合もあるんじゃないかって」
「あぁ、だんだん思い出してきた。教誨師とか坊さんが来て、聖書や般若心経を読んだり、したり顔で説教したりしてたな。最後の煙草を吸って、饅頭を美味しそうに食って、お茶飲んだあと、死装束を着せられて、13階段登って、目隠しされて……。 『死にたくない!!』って、泣き叫んだり、暴れたりするやつとかいて。 執行されたあとの苦痛に歪んだ死に顔! あぁ、思い出したくないけど、思い出してしまった」

 

俺は急に涙が溢れてきた。同じ人間として生まれてきて、初めから環境の違いとかがあって、道を踏み外す人間もいれば、愛情に包まれて幸せな人生を歩む人間もいる。神はすべての人間に公平じゃないのか? なにかの因果応報だとでもいうのか?


トーマは嗚咽している俺の頭をなでなでしながら言った。
「純也さん、もうひとつ、あなたに言わないといけないことがあるの」
「なんですか?」
「あなたがここにいるわけはね、実は仕事とは関係ないの」

「えっ、どういうことですか?」

 

 

(vol.4 最終話に続く) 

 

 

2015.3.5

2019.6.2改訂