短編小説 死にものがかりvol.2(改訂版) | 秋 浩輝のONE MAN BAND

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はじめに言葉はない

地獄は想像したほど恐いところではない。おどろおどろしさもなく、堕ちた人間の阿鼻叫喚も聞こえない。現世と同じように、街や山や海がある。だが、太陽はない。不思議だが、なくてもそこそこ明るいのだ。光源はなんだろう?  トーマに聞いてみた。

「それはここに堕ちた人間の心の具合によって変わるの。心に闇を抱えている人間が増えれば暗くなるし、希望を抱いている人間が増えれば明るくなるの」
「そうなんだ。でも、地獄に堕ちた人間なんて、みんな闇を抱えて絶望してるんじゃ?」
「意外とそうでもないのよ。ほとんどの人は天国に昇天したくて、希望を捨ててないわけ」
「そうなんだ。でも、ここでの暮らしは、思ったほど苦痛ではないですね」
「一見ね。でも、実は根っからの極悪人は、離れ島に監禁されていて、 毎日、死ぬほど働かされてる。あっ、もう死んでるか」
そう言うと、トーマは笑った。
「そうなんだ。すると、ここにいて、普通の暮らしをしている人間は、まだマシなんですね」
「今のとこはね」
「今のとこは? どういうことですか?」

「もうすぐ、冥府を司るハーデス神がやってくる時期だからね。何年か前、冥王星が惑星から小惑星に降格になったじゃない? だから機嫌が悪いのよ」
「神は大きな心を持っているんじゃないんですか?」
「いや、けっこうセコいのよ。ゼウス神と仲悪いし。 自分のことをアピールしようと、パチスロ『GOD』の次のバージョンは、 『HADES(ハーデス)』になるよう、裏から手を回したらしいわよ」
「なんてやつだ!」
「声が大きいわよ」
「ハーデス神が来たら、どうなるんですか?」
「くだらない決まりごと作って、守らない人間には罰を与えるの」
「たとえば?」
「冥界の番犬ケルベロスに会ったら、必ず跪いて挨拶しろとか」
「綱吉かよ。しなかったら?」
「唐辛子を山のように降りかけた超激辛地獄ラーメンを、立て続けに100杯食べさせられるらしいわ」
「中森明菜じゃあるまいし」

「明菜は唐辛子じゃなくてタバスコよ。あと、ハーデスの奥さん、冥界の女神ペルセポネに会ったら、跪いて靴を舐めろとか」

「しなかったら?」

「先の尖ったピンヒールで手の甲を踏まれて穴をあけられるらしいの。だから、こんな地獄から脱出しようと、ほとんどの悪人は昇天試験受けて天国へ行こうとするわけ」

「ある意味、現世の刑務所みたいなもんですね」
「でも、人間は喉元過ぎれば熱さを忘れるからね。心から善人になろうと決意しない限り、また天国から地獄へ舞い戻ってくるの」

「胸が痛いです…」

 

 

冥王ハーデス
 
 
冥界の番犬ケルベロス

 

 

冥界の女神ペルセポネ

 

(vol.3に続く)

 

2015.3.3

2019.6.2改訂