人を殺めてしまった。他人ではない。自分で自分を殺したのだ。自分の体は自分のものではない。神の所有物だ。だから、自分を殺そうと他人を殺そうと、殺人は殺人だ。俺は今、地獄にいる。人を殺めた人間は、死後、みんな地獄に行くのだ。
某宗教団体のO総裁は両手の指を絡ませ、人差し指だけ立てて「っん!」と言うと、霊界にいる有名人がO総裁に憑依して喋り出す。ニュートンが、アインシュタインが、日本語でペラペラと。だが、俺は有名人ではないので、O総裁が俺を呼び出すことはない。俺はここで見聞きしたことを友人秋浩輝に、アイフォンのメールで送信することにした。その文章を秋浩輝にブログにアップしてもらうのだ。ま、俺も秋浩輝も有名人ではないので、ほとんど誰も読んではくれまいが。
俺は現世と地獄の境界を見つけた。境界には、戸田恵梨香に似た女の子がいた。彼女は俺の顔を見るとニコッと笑った。そして、いきなり「ギョウザ食べない?」と言って、スーパーの袋を俺の前に差し出した。生憎と俺はギョウザが大嫌いだ。あんな臭い食べ物のなにが旨いのか、さっぱり解らない。
「ギョウザは嫌いなのでいりません」
「こんなバカウマな食べ物、地獄にはほかにないのよ」
「いや、けっこうです。ところで、あなたはどなたですか?」
「私? ラ・トーマよ」
「ラトーヤ?……ジャクソン?」
「フランスではラは女性名詞のアタマに付くの。 海はラ・メールでしょ? ラは省略してトーマと呼んで」
「トーマさん? どこかで聞いたような?」
「現世で生きてる頃から、私にはオタクのファンが多かったの」
「知りませんでした」
「あなたはなんで地獄にきたの?」
「俺は……自分で自分を殺しました」
「自分のことが嫌いだったのね」
「よくわかりません。急に死にたくなったんです」
「どうして?」
「それがよく覚えてないんです」
「あ、そう。ところで、地獄では天国に行ける昇天試験があるの。受けてみない?」
「敗者復活戦みたいなもんですか?」
「ま、そんなものかもね」
「トーマさんはここで何をしているんですか?」
「死んだ人の案内係みたいなもんね。『死にものがかり』かな。はははは。ところで、これからどうするつもりなの?」
「せっかくですから、しばらく『地獄めぐり』でもしたいと思います」
「それもいいかもね。『血の池地獄』とか『海地獄』とか『坊主地獄』とか、いろいろあるわよ」
「どこかで聞いたことあるようなネーミングですね」
「現世にあるのは、一度地獄に来たことがある人が生き返ってつけた名前なのよ」
「それは初耳です」
「トーマがいろいろ教えてあげる。なんでも聞きなっせ、聞きなっせ」
「そ、それは、どーも……」
(vol.2に続く)
2015.3.1
2019.6.2改訂
