レビュー9 パセリ・セージ・ローズマリー&タイム Simon & Garfunkel | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない


①スカボロー・フェア/詠唱 ②パターン ③クラウディ
④早く家へ帰りたい ⑤プレジャー・マシーン ⑥59番街橋の歌
⑦夢の中の世界 ⑧雨に負けぬ花 ⑨簡単で散漫な演説
⑩エミリー・エミリー ⑪地下鉄の壁の詩 
7時のニュース/きよしこの夜


アルバム・タイトルは、「スカボロー・フェア」の歌詞の一部で、4種の香料の名前である。(セージやタイムは、カレーの香料としても使われている)歌詞の中では、前後の文脈に関係なく唐突に出てくる。一種のオマジナイのようなものかもしれない。「スカボローフェア」と「きよしこの夜/7時のニュース」以外は、すべてポールのオリジナル作品。このアルバムからは、彼ららしい綿密な音作りがなされてゆく。どの曲も完成度は非常に高い。

だが、レコード会社の意図だろうが、ジャケットがアートをセンターにした少女趣味なものになってしまったのは残念だ。可哀想にポールは、似合わないフリフリの服を着させられて(笑)、アートの横で居心地悪そうに座っている。わざとらしく手前にあしらった花は、いったいなんなんだ!
たしかにアートの表面的イメージは、2枚目の文学青年で、甘い声で囁くように歌う…といった感じで、このジャケットのような雰囲気も一部あるにはあるが、ポールは、まったくと言っていいほど違う。


曲には常に「抒情」と「知性」と「毒」が混在していて、こんな甘ったるい雰囲気は、本質からは遠いものである。S&Gの多面的な本質を(ジャケットのヴィジュアルも含め)すべて表現したアルバム(ブックエンド)を聴くためには、もう1年待たなければならなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


① スカボロー・フェア/詠唱
オリジナルはイギリスのトラッド(民謡)。ポールはイギリスでライブハウス回りをしている時、たくさんのミュージシャンと知り合ったようだが、マーティン・カーシーもそのひとり。彼からこの曲を教えてもらったらしい。だが、ポールはこの曲の作者を自分名義として発表したため、マーティンは激怒し、ポールを告訴したのである。後に和解し、ポールは自分のコンサートのゲストとして、マーティンを迎え、一緒にスカボロー・フェアを演奏した。ポールはかなりの野心家でエゴイストであるという話はよく聞く。だが、世界的なミュージシャンになるためには、人を蹴落とすぐらいのバイタリティや根性がないと無理なのだろう。

この曲はトラッドであるため、バート・ヤンシュをはじめ、たくさんのイギリスのミュージシャンが録音している。(原曲の歌詞は16番くらいまである!)だが、いろいろと調べてみると、似たような歌詞で、ぜんぜん違うメロディの歌があったりする。ボブ・ディランが63年に出した「北国の少女」も、歌詞は酷似しているが、メロディはまったく違っている。ディランに教えたのもマーティン・カーシーだそうだが、そうなると何が何だかよく分からない。魑魅魍魎とした世界である。

それはともかく、同曲のいろんな演奏を聴いて思ったことは、S&Gが如何に洗練された美意識を持ったミュージシャンであるかということだった。逆に言うと、ロンドンのライブハウスでシコシコやってるほとんどのミュージシャンの演奏は、最大公約数的な美しさやポピュラリティに欠けている。ギター・テクニックはポールと同等、もしくはそれ以上のミュージシャンはゴロゴロしているのだが、ボーカルやアレンジや録音に対するこだわり方が、まったく違うのである。ただ、ミュージシャンが何をもって理想とするのかは、ミュージシャンの自由だ。表現方法や聴衆とのコミュニケーションの取り方は、千差万別、色々あるからこそ音楽は面白いのである。

S&Gのハーモニーの人を癒す力の大きさは、何百万分の一の奇跡によるものだといってもいい。だが、これは本人たちの努力もさることながら、ふたりの声質の相性が偶然、最良のものだったという幸運に恵まれたからである。その稀にみる美しさは、神の思し召しとしか言いようがない。たとえ、歌の上手な人同士がハモったとしても、万人が納得するような美しいものが生まれるとは限らない。それは運しかないのである。

S&Gがレコードという録音媒体に究極のこだわりを持ち始めたのは、このアルバムからであろう。特にこの曲は、多重録音技術があまり発達してなかったこの時期に最大8トラックをフルにハーモニーと演奏楽器に使い、コーラスごとに微妙に変化するメロディとハーモニーの暖かで豊かな肉声、ギターやチェンバロのアルペジオの艶やかで煌びやかな弦音、それらの音がコントラスト鮮やかに、バランス良くMIXされて、まるで、この世のものとは思えぬような美しい音楽を作り上げた。美し過ぎるがゆえに、録音技術に頼り過ぎているのではないかといった疑念もその当時あったが、ライブでのアコギ1本のみを伴奏にしたふたりのハーモニーを聴くと、確かなハーモニー・ワークとギター・テクニックが根幹にあってこそ生きた録音技術だというのがよく解る。ただ、対旋律として新たに彼らが作曲した「詠唱」は、ライブでは再現不可能なのが残念である。「詠唱」の元の歌詞は「ポール・サイモン・ソングブック」に収められた曲、「The side of a hill」。「スカボローフェア」のイメージである「平和(実は失恋の歌だが)」と「詠唱」で語られる「(忘れられた大義名分で続く)戦争」の悲惨さを対比させ、ふたりの声が美しく交差してゆくのが見事である。


 

②パターン
この曲を初めて聴いたのは、「ポール・サイモン・ソングブック」に入ってるアコギ1本のみの変則チューニング・バージョンだった。それがすごくかっこいいギターだったので、このアルバムに入ってるバンド・バージョンを聴いても初めはあまりピンとこなかった。バンド・バージョンはイントロとエンディングは、アコギ・バージョンとほぼ同じだが、ギターのイントロが終わった途端、パーカッションとベースだけをバックにポールの歌が入り、要所要所で頭のワン・フレーズだけをアートの叫ぶようなハモリが入るという変わったアレンジ。間奏には珍しくオリエンタルなフレーズのアコギ・リードが入る。そして、ポールのボーカルはあくまでも軽く、一部イコライザーを使用して、ラジオ・ボイス(真ん中あたりの音をカット)に変わるという、けっこう遊びの要素が強いアレンジだ。何度か聴くにつれ、これはこれで面白いなと(笑)だが、歌詞のメッセージは、暗く重い。死ぬまで、同じパターンを繰り返さなければならない人間の行動や思念を鼠の動きに喩えたもの。息苦しさや絶望を感じさせる曲である。

 

③クラウディ
爽やかで軽いタッチの曲だが、「曇り空」というタイトルからして、それだけで終わるはずはない。「トルストイからティンカーベル」文学(者)の質の幅から、「バークレーからカーメル」アメリカの都市の距離感へとさり気なくチェンジしているのが、如何にもポールらしい。アートのバック・ハミングはあくまでも爽やかで軽い…。最後のcloudy…の繰り返しのハモリは、すっとんきょうにわざと音程を外すサービスぶりである(ライブでも再現している)

 

④早く家に帰りたい
おそらくロンドンの下積み時代に作ったものだろう。イギリスの地方回りしている時にロンドンでポールを待つキャシーのことを思って書いたのか、故郷ニューヨークを思って書いたのか、解釈が分かれるところである。ライブはアコギ1本で、充分なスケール感を表現しているが、スタジオ・バージョンも良い出来である。ワン・コーラス目のクリシェの部分で、ピアノの音が1箇所(和音1回)だけ入っているが、なんと贅沢な使い方をするのだろう!(非常に効果的に使われているのがニクイ)

 

⑤プレジャー・マシン
チープぽいロック・サウンド。映画「卒業」にも使われた。アコギのフレーズの安っぽさが面白い。「ベイビー・ドライバー」にも共通するものがある。

 

59番街橋の歌
3コードの繰り返しというシンプルな曲だが、ベースとドラムにジャズ・ミュージシャンを起用。それが見事にツボにはまっている。ライブのアコギ1本バージョンも大変素晴らしい。エンディングの二人のスキャットも最高で、本当に楽しい曲である。

 

⑦夢の中の世界
コミュニケーションの欠如というS&Gのテーマを、より具体的に恋人の関係を通して表現した曲。バックに初めてストリングスを配し、レコード会社も力を入れたようだが、思ったほどのヒットにはならなかった。日本語タイトルは、詞の内容とは違和感がある。原タイトルは「Dangling Conversation」直訳すると「宙ぶらりんの会話」になる。「エミリー・ディキンソン」「ロバート・フロスト」と、詩人の名前が出てくるが、この曲で初めて知り、詩集を読んだ人も多いようだ。実は私もそうであった(笑)

 

⑧雨に負けぬ花
地味な曲だが、私の人生観の中ではかなり影響を受けた曲である。

 

⑨簡単で散漫な演説
ほとんど喋りのような歌(笑)「ポール・サイモン・ソングブック」に入っているアコギ・バージョンとは、詞はほとんど同じだが、リズムやギターはぜんぜん違うものになっている。ポールが影響を受けたいろんなモノが出てくる。ディランに対する皮肉だと言う人もいるが、どうなのだろうか?

 

⑩エミリー・エミリー
これはアート向きの幻想的な美しいラブ・ソング。歌はアートのソロ、伴奏はポールの12弦ギター1本。この曲はライブのほうが遥かに素晴らしい! ギター・コピーに勤しんだことを思い出す。この曲を弾きたいがために12弦ギターを買ったようなものである(笑)

 

⑪地下鉄の壁の詩
「サウンド・オブ・サイレンス」の世界を思い起こさせるタイトルだが、文学詩のように難解で、その解釈は難しい。韻を踏んだ言葉の洪水がぴったり合ったハーモニーを伴って疾走してゆく…。そのスピード感と整合感は気持ちが良い。詩の解釈は未だに出来ずにいる。

 

7時のニュース/きよしこの夜
お馴染みのクリスマス・ソングに、ニュース原稿を読むアナウンサーの声を被せたもの。ベトナム戦争、ニクソン大統領、ジョンソン大統領。レニー・ブルース、キング牧師の死…アメリカの歴史の断片が語られる。