レビュー2 水曜の朝、午前3時 Simon & Garfunkel | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

サイモン&ガーファンクル(以下S&G)名義のオリジナル・アルバム(ライブ盤は除く)は、正式に活動した7年間(19641970)の間に、僅か5枚しか出ていない。そのいずれのアルバムもガラス細工のように煌びやかで美しく、鋼のような鋭さを持った詩とハーモニーに彩られた傑作である。アルバムごとに、その特徴や私自身の想い、感想などを語っていきたいと思う。

①ユー・キャン・テル・ザ・ワールド ②きのう見た夢(平和の誓い)
③霧のブリーカー街 ④すずめ ⑤ベネディクタス 
⑥サウンド・オブ・サイレンス ⑦私の兄弟 ⑧ペギー・オウ 
⑨山の上で告げよ ⑩太陽は燃えている
⑪時代は変わる ⑫水曜の朝、午前3

 

1964年に発表されたSGの正式なデビューアルバム。(それ以前のハイスクール時代にTom & Jerryとして何枚かのシングル盤を出していた時代や、それぞれがソロ名義で発表していた時代は除く)ポールによるオリジナル曲は、③④⑥⑦⑫ 既成曲は、①②⑤⑧⑨⑩⑪既成曲がオリジナル曲の数を上回るという変則的な構成になっている。これ以降のアルバムは、ほとんどがポールのオリジナル曲となる。また、このアルバムは当時流行っていたメッセージ色の強いフォークソング(オリジナル、既成曲とも)で占められ、ほとんどの曲の楽器構成は、アコギとアコベのみのシンプルなものとなっている。

面白いのはふたりのボーカルが、LRにはっきりと分離していることである。それぞれのボーカル・ラインが完全に聴き取れるので、ハモリの勉強になります。(まるで教科書のよう(笑))次のアルバム以降、ふたりのボーカルはほとんどセンター定位となり、アルバムごとにハモリが複雑に進化するため「解読」が難しくなっていく。(解散まもなく発表されたライブ4曲のうちの2曲、「早く家にかえりたい」「59番街橋の(Feelin' Groovy)」は分離している)しかも、ふたりとも録音には異常な(笑)こだわりがあるので、わざと声を部分的に似せて、すり替えてみたり、(実際、ふたりの声の中音域はよく似ている)多重録音を駆使して何重ものハーモニーにしたり、イコライザーを多用するなどのギミックな手法がみられる。



 

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②きのう見た夢

ポールのオリジナルではなく既成曲。残念ながら原曲は聴いたことがない。戦争が終わった後、平和が訪れ、人々がダンスを踊るという夢を見た…という素朴で解りやすい反戦歌。間奏では、珍しくバンジョーが使われているが、おそらくダンスを楽しげに踊っている様子を表現したものと思われる。

 

③霧のブリーカー街

S&G名義としては初のオリジナル曲。初期のポールの曲は、「はじめに詩ありき」で、文学詩のような格調高い詩が多いのが特徴。ポール自身も「自分はメロディよりも言葉に強いと思っている」と語っている。「人間相互のコミュニケーションの疎外、欠如」が、S&G初期の一貫したテーマと言われている。(たぶん、そのとおり)この曲は聖書の文言を引用しながら、人間同士のコミュニケーションが取れないことを、「カフェから寂しげな微笑がこぼれ落ちる」と表現している。

 

④すずめ

「すずめを愛するのは誰?」という問い掛けに対し、「私ではない」と「樫の木」や「白鳥」や「小麦」がそれぞれ答える。「それは私だ」と答えたのは「大地」。ポールはこの詩では、比喩を駆使して、叙情に溢れた童話風の物語に仕立て上げた。「樫の木」、「白鳥」、「小麦」は、「強欲」、「虚栄」、「偽善」を例えたもので、(このことはアートがライナーに書いている)「すずめ」はたぶん純粋無垢なものの象徴だと思われる。
「大地」はすべてを包み込み、受け入れる母のような存在の象徴かもしれない。そして最後は、「塵から生まれたものは、塵に還っていく」という一文で締め括られる。仏教ぽい無常観だが、実はこれも聖書からの引用である。


 

⑤べネディクタス

アートが見つけてきた中世の賛美歌だそうだ。独立した2声のハーモニーで、輪唱のようにアートがポールの声を追いかけていく。(真ん中くらいからはポールがアートの声を追いかける)ライブでも披露しているが、まるで聖歌隊が歌っているようで本当に美しい。(実際、アートは子供の頃、教会の聖歌隊で歌っていたそうだ)



 

⑥サウンド・オブ・サイレンス

1966年、CBSのプロデューサー「トム・ウィルソン」によって、エレキ・ギター、エレキ・ベース、ドラムが、このソースに多重録音されたものが発表された。そのことはポールとアートにまったく了解を取ってないが、あっという間に世界的な大ヒットとなった。原曲はこのとおりで、アコギと控えめなアコベ、ふたりのハーモニー・ボイスのみのシンプルな構成。詳しくは次のアルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」で述べたいと思う。



⑦私の兄弟

ポールの大学時代の友達「アンドリュー・グッドマン」の死に、ポールはショックを受け、この曲を書いたと言われている。アンドリュー・グッドマンはK.K.K(クー・クラックス・クラン=白人至上主義者グループ)によって、射殺された公民権運動家である。この曲の最後の歌詞は…「涙で彼を取り戻すことは出来ない。彼は彼の兄弟が自由になるために死んだのだ」

あとで調べて解ったのだが(というか、忘れていた)、この曲はアンドリュー・グッドマンのことを書いたものではない。その事件が起こる1年前には、この曲は出来上がっていたのである。元になるものが何かあったのかどうかは解らないが、ポールはこの事件をうまく利用したのである。非常にあざといやりかたではあるが、歌は「事実」を書くものではなく、「真実」を伝えることである。ポールはストーリー・テイラーの才能を持った「作家」なのである。


 

⑪時代は変わる

詩人として後々ポールと比較されることの多いボブ・ディランの曲のカバーである。ディランはその後、「セルフポートレイト」というカバー曲を集めたアルバムを録音したが、その中でS&Gの「ボクサー」をお返しとしてカバーしている。そして、19997月、ポールとディラン両巨頭(笑)のジョイント・ライブが現実のものとなった。聴く前は、ギターもボーカルもまるでスタイルの違うふたりが「サウンド・オブ・サイレンス」や「天国の扉」をデュエットしたらどうなるのか想像もつかなかったが、聴いてみると、これはこれでなかなか面白いかなと思った。全体的にはダルな雰囲気で、ディランのいい加減さが目立っていたが、これが彼の持ち味かもしれない(笑)


 

⑫水曜の朝、午前3


強盗の罪を犯した青年が恋人の寝顔を見て、いろんな感慨に耽り、後悔、不安に慄きながら夜が明けてゆく…というストーリー性のある曲。曲名はアルバム・タイトルにもなっている。ソフトでメロディアスな曲である。例によって、ふたりのハーモニーは限りなく美しい。次のアルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」には、この曲とほとんど同じ歌詞だが、メロディがまったく異なる「どこにもいないよ」という曲が収められている。
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 (なんちゅー間の抜けた邦題!)
「どこにもいないよ」の原タイトルは、
Somewhere they can't find me