訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノートその3 売買と契約不適合責任その2」
ア 契約不適合責任
(買主の追完請求権)※
改正法第562条
第1項「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものではないときは、買主が請求をした方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」
第2項「前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完を請求することができない。」
※契約不適合責任と追完請求権
改正法は、売買契約において、売主の買主に対し、引き渡した目的物の種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合)に、契約上の責任を負う。これを契約不適合責任という(債務不履行責任の一種。潮見佳男・民法(債権関係)改正法の概要278頁。日弁連編・前掲378頁以下は、改正法は、瑕疵に代えて「契約内容不適合」の概念を採用したという【改正前民法570条の規定の廃止】。改正法上、「担保責任」という用語も、この意味で理解すべきである【潮見・概要259頁参照】)。
本条が定める、買主の売主に対する、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡による履行の追完請求権(本条1項本文)は、その具体例である(このほか、代金減額請求権【改正法563条】、損害賠償請求権及び解除権【改正法564条】がある。)。
ここでいう売買の目的物は、特定物はもちろん、不特定物、種類物も含む(特定物ドグマの否定☆)。本条1項は、目的物の①種類、②品質、③数量の契約内容不適合をあげる。改正前の瑕疵担保責任における「隠れた瑕疵」は、①②に当たり、物理的瑕疵のみならず、法律上の瑕疵【例えば建築制限など】も①ないし②に当たると解される(私見。改正前の「隠れたる瑕疵」の解釈として最判昭和41・4・14に同旨。但し、建物評価の問題として、権利瑕疵に関する改正前民法566条類推とするのは、東京高裁平成15・1・29、名古屋高裁平成23・2・17などがあり、改正法下では、法律上の瑕疵は解釈に委ねられるとするのは日弁連編・前掲380頁)。③は、改正前民法の数量指示売買に当たる(改正前民法565条、最判昭和43・8・20参照)。
なお、改正前民法の「隠れた瑕疵」の「隠れた」の意味は、買主側の瑕疵に関する善意無過失(瑕疵の認識可能性)を指していたので、改正法は、当事者の主観的事情は、契約内容の解釈に解消されるとして、契約適合性と独立して判断することは理論的でないと考え、「隠れた瑕疵」という用語を採用しなかった(潮見・概要260頁参照)。
☆特定物ドグマと民法483条
改正前民法483条は、「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。」とし、特定物ドグマの根拠とされていたが、改正法は、特定物ドグマを否定したので改正法第483条は「債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。」という規定に修正されている。この規定から、品質の契約不適合性は、「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念」に照らして総合的に判断することになる(日弁連編・前掲380頁参照)。
買主が、損害賠償請求権を行使する場合は、債務者(売主)の帰責事由が必要となるが(改正法第564条、415条参照)、買主の追完請求権の行使に当たっては、売主の帰責事由は不要である(本条に帰責事由の定めなし。代金減額請求権、解除も同じく売主の帰責事由は不要である。)。これに対し、買主に目的物の契約不適合について、帰責事由がある場合は、買主の追完請求権は否定される(本条第2項。☆ 代金減額請求権、解除も同じ。但し、損害賠償請求は債権者の過失相殺の規定がある。)。かかる場合、買主を保護する必要はないからである。
なお、売主は、買主に不相当な負担を課するものではないときは、買主が請求をした方法と異なる方法による履行の追完をすることができるとされ(本条1項但し書き)、追完における売主の便宜を図っている。例えば、輸入品である冷蔵庫の代替物を要求されても、時間をかけて代替物を用意するより、修理や部品の一部交換で追完するほうが、短期で解決できる場合などが考えられる。
☆追完請求権と履行請求権の関係
改正前民法における瑕疵担保責任の契約責任説や不特定物売買における追完請求に関連して、追完請求権は、本来の債務の履行請求権の一種とみる見解が一般的だったようである【履行請求権=追完請求権】。しかし、これでは改正法が債権者に帰責事由がある場合に追完請求権が否定されることの説明がつかない。そこで、履行請求権と追完請求権は異質のものとみて、債務不履行(契約不適合)を理由として買主に与えられる救済手段の一種と解する見解が主張されている(潮見・新総論Ⅰ334頁)。もっとも、そうなると契約適合義務は、本来の債務とは内容を異にするということであり、従来の瑕疵担保責任に関する契約責任説の考えを修正することになろう(私見)。