訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノートその2 債務不履行・危険負担と解除制度その5(完)」
(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
改正法第543条
「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。」
※債権者の帰責事由による解除制限
本条は、改正前民法543条但し書きと異なり、債務者の帰責事由ではなく、債権者に帰責事由がある場合の解除制限となっている(新設)。不履行につき帰責事由のある債権者に契約の拘束力、つまり反対債務からの解放を認めること相当でないからである(潮見・前掲243頁参照)。
改正前民法第543条
「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
(解除の効果)
改正法第545条
第1項「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を現状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。」
第2項「前項本文において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。」
第3項「第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。」※
第4項「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。」
※解除の効果と果実の返還
本条項は、第2項の利息返還とバランスを図るため、受領時以降の果実返還を定めたものである(新設)。なお、第1項第2項と第4項は、改正前と同じである。それゆえ、従来の解除の効果に関する緒論点は、改正法においても解釈に委ねられる。例えば、解除の性質に関する直接効果説と間接効果説の議論や原状回復における給付不当利得論の適用など。
(解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅)
改正法第548条※
「解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。」
※解除権者の故意等による解除権の消滅
改正前民法の「行為若しくは過失」を「故意若しくは過失」に変更し(従前も故意若しくは過失の意味と解していた。我妻=有泉・前掲1028頁)、無意味な改正前民法548条2項を削除したものである。なお、本条が予定されるのは、履行後の損傷等であり、かかる債権者の故意若しくは過失がある場合、解除権の放棄と評価できるから(潮見・概要245頁参照)あるいは解除権を有する者が自ら目的物を損傷ないし返還不能にしたにもかかわらず解除権を認めるのは「信義則に反するから」である(改正前民法の解釈であるが、我妻=有泉・前掲1028頁)。