(3)不服申立制度
新法は、刑事施設内の処分に対する受刑者の不服申立制度を設けている。
ア 審査の申請及び再審査の申請の制度
受刑者が刑事施設内の処分などに対し取消・変更を請求し、行政側がこれを審査し、裁決による判断する制度である。審査請求は受刑者の権利であり、行政には裁決する義務がある。すなわち、本制度は、行政不服審査法の審査請求及び再審査請求の特例と位置づけられる。
審査の申請は、書面で、当該刑事施設の所在地を管轄する矯正管区の長に対して行われる(法157条1項)。その書面は申請者の萎縮を防ぐため信書検査の対象にはならず、職員に対して秘密にすることができるように刑事施設の長は、必要な措置を講じる義務がある(法169条)。
審査の対象となる処分等の措置は、法157条1項1号~16号に列挙された措置である。これは限定列挙と解されかつその効力に一定の継続性が認められるものであり、そのため、短期間で終了する保護室への収容は対象から除外されている(川出=金・前掲214頁)。
第157条第1項「次に掲げる刑事施設の長の措置に不服がある者は、書面で、当該刑事施設の所在地を管轄する矯正管区の長に対し、審査の申請をすることができる。
一 第四十一条第二項の規定による自弁の物品の使用又は摂取を許さない処分
二 第四十九条の規定による領置されている現金の使用又は第五十条の規定による保管私物若しくは領置されている金品の交付を許さない処分
三 第六十三条第一項の規定による診療を受けることを許さない処分又は同条第四項の規定による診療の中止
四 第六十七条に規定する宗教上の行為の禁止又は制限
五 第七十条第一項又は第七十一条の規定による書籍等の閲覧の禁止又は制限
六 第七十条第二項の規定による費用を負担させる処分
七 第七十六条第一項の規定による隔離
八 第九十八条第一項の規定による作業報奨金の支給に関する処分
九 第百条第二項(第八十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定による障害手当金の支給に関する処分
十 第百条第四項(第八十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定による特別手当金の支給に関する処分
十一 第百二十八条(第百三十八条において準用する場合を含む。)の規定又は第百二十九条、第百三十条第一項若しくは第百三十三条(これらの規定を第百三十六条(第百四十五条においてその例による場合を含む。次号において同じ。)、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)の規定による信書の発受又は文書図画の交付の禁止、差止め又は制限
十二 第百三十二条第五項前段(第百三十六条、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)の規定による発受禁止信書等の引渡しをしない処分(第百三十二条第三項(第百三十六条、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)の規定による引渡しに係るものに限る。)
十三 第百四十八条第一項又は第二項の規定による費用を負担させる処分
十四 第百五十条第一項の規定による懲罰
十五 第百五十三条の規定による物を国庫に帰属させる処分
十六 第百五十四条第四項の規定による隔離」
審査期間は、原則30日以内である(法158条1項)。
審査請求に対する判断である裁決は、できる限り90日以内に行われなければならない(努力義務 法161条1項)。裁決には、審査請求が不適法であるとする却下、審査請求に理由があるとする認容、理由がないとする棄却がある(法161条2項)。認容は処分を取り消し、又は継続性のある事実的措置の撤廃を処分庁に命じその旨を宣言する(川出=金・前掲215頁)。
裁決に不服のある受刑者は、30日以内に、法務大臣に対し、再審査の申請をすることができる(法162条1項、2項)。
イ 事実の申告制度
刑事施設職員の暴力等の事実行為に対する不服申立制度である。職員の暴力等の一過性の事実行為は、継続性がないので審査請求の対象とはならないが、受刑者の人権保障から不都合で有り、人権保障、再発防止の観点から特に設けられたものである。
受刑者は、違法な有形力の行使、拘束、保護室への収容などの事実行為に対して、矯正管区の長に対して申告し、その有無の確認を求める(法163条1項)。矯正管区の長は、事実の有無を確認し、その結果を申請した受刑者に通知し、事実があった場合は、職員の懲戒処分・配置換えなど必要に応じて再発防止の措置をとる(法164条1項、2項、4項)。手続きは審査の申請制度に準じる。
ウ 苦情の申出制度
苦情の申出制度は、審査の申請や事実の申告の対象にならない処分・事実行為など処遇全般について広く不服申立の機会を与える制度である(川出=金・前掲216頁)。これは旧監獄法の情願制度と署長面接を改善・再構成したものである※。
申立の相手は、法務大臣、監査官、所長であり、手続き規定の定めはないが、苦情を誠実に処理し、処理の結果を申立をした受刑者に通知する義務がある(法166条3項、167条4項、168条4項 誠実処理義務)。
※旧監獄法下の情願制度と所長面接
旧監獄法下の不服申立制度として、情願制度と所長面接があった。
情願制度とは、監獄の処置に対して不服があるときは、主務大臣(法務大臣)または巡閲官吏(法務大臣の命を受けて施設の実地監査を行う法務省の職員)に対して、情願を行うことができるとする制度である(旧監獄法7条)。そもそも情願は請願の一種で有り、法律上は法務大臣等の指揮監督権の発動を促す意味しかなく、情願に対する行政側の回答義務はないとされ、却下されても理論上抗告訴訟の対象にもならないと解されていたが、実務上は、情願があれば法務省職員による調査がなされ、採択、却下、棄却の裁決を行う運用がなされていた(川出=金・前掲212頁)。
所長面接とは、在監者(受刑者)の申立を受けて、刑事施設の長が面接する制度である(旧監獄法施行規則7条)。権利救済というより、カウンセリング的なものであり、面接を求める権利が受刑者に認められているものではなかった。
上記の制度は、不服申立制度としては、極めて不十分で有り、新法制定前の平成16年の情願件数が約9000件であったことからすると、不服申立制度の必要性は緊急の課題であったといえる。それゆえ、かかる情願制度と所長面接は新法により廃止され、前述した新たな不服申立制度が新設されたのである。