3 施設内処遇の秩序維持と不服申し立て手続き
(1)受刑者も各種人権を享有し、保障されることが原則であることは当然と考えられている。すなわち、受刑者であるがゆえに原則として人権が保障されず、司法審査も及ばないという考え(特別権力関係論)は判例及び通説ともに採用されていない。しかしながら、受刑者は刑の執行として自由を拘束され、各種処遇を受け、刑事施設で集団生活する以上、例外的に、その拘禁の目的に照らし必要最小限度の制約が許容されると解されている。すなわち、収容の確保・施設内の規律秩序維持・矯正処遇の実施上の必要最小限度の合理的制限が受刑者に認められる(川出=金・前掲190頁以下参照)。
ア 書籍等の閲覧と制限
旧監獄法では、書籍等の閲覧は施設側の裁量とされ(旧監獄法31条1項)、権利性が明文上認められていなかった。しかし、従来の判例上、書籍等の閲覧も憲法21条等の保障の範囲であることを前提とする判示をおこなっていたこともあり、刑事収容施設法は、明文で、自弁の書籍等を閲覧することは、原則として禁止・制限されないとの規定を置き、法律上権利性を明確にした(法69条)。実務上も、居室内での書籍等の所持数及び閲覧期間が制限されることがなくなり、自弁の新聞の購読も可能になった。ただし、制限を受ける例外として、法70条1項は、①刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき、②受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障が生ずるおそれがあるとき、③未決拘禁者において、罪証隠滅の結果を生ずるおそれがあるとき施設の長が閲覧を禁止できると規定している。
なお、旧監獄法時代の運用と異なり、死刑確定者に対する書籍等の閲覧に関し、心情の安定を害することを理由とする閲覧禁止・制限を認める規定は刑事収容施設法には存在せず、同法では、心情の安定を理由とする閲覧制限をすることはできないと解される(川出=金・前掲193頁)。
①②③の「おそれ」とは相当な具体的蓋然性の存在が必要と解すべきであろう(よど号ハイジャック事件判例参照)。なお、テレビ・ラジオの視聴の保障は、権利として新法上認められていないが(事前に制限事由にあたるか判断できないため)、国の負担により日刊新聞の備え付け、報道番組の放送などにより、時事報道に接する機会を与える努力義務を施設の長に課している(法72条)。旧監獄法時代も録画録音した番組を視聴させる運用がなされており、この運用を明文で認めたものである。社会復帰の観点からは外部の時事情報から遮断することは望ましくないし、「知る権利」からしてもテレビ・ラジオの視聴については、「権利」性を認める方向の解釈・立法が望ましいであろう(川出=金・前掲194頁参照)。
イ 外部交通の保障と制限
(A)面会
旧監獄法時代での受刑者の外部の者との面会は、施設の長の裁量で有り、面会の立ち会い、回数、原則親族に限定など制約が大きかった(旧監獄法45条、50条、旧監獄法施行規則127条、123条)。
しかし、刑事収用施設法は、受刑者の面会を権利として保障し、その制限を大幅に緩和した。
・面会者の種類による区分:
① 権利面会…受刑者の親族、婚姻関係の調整など受刑者の重大な利害にかかる用務の処理のために面会することが必要な者、受刑者の改善更生に資すると認められる者との面会は、原則として許される(法111条1項)。
② 裁量面会…権利面会対象者以外の者について、交友関係の維持その他面会することを必要とする事情があり、かつ、面会により、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ、又は受刑者の矯正処遇に支障が生じるおそれがないとみとめられるときは、面会が許される(法111条2項)。
・面会の立ち会い:
旧監獄法時代は、原則として立ち会い無しの面会は許されないとされていたが、新法は、刑事施設の規律秩序維持や受刑者の矯正処遇などの理由により、必要があると認めた場合に、立ち会いを行うことができるとされた(法112条)。ただし、処遇上の救済のため弁護士等と面会する場合は、特別の事情がある場合を除き、立ち会いを行うことは許されない(法112条但し書き)。
・面会の回数:
旧監獄法時代は、月1回の面会とされたが(懲役受刑者)、新法は、面会は1月に2回は下回ってはならないとし、面会の最低保障回数を定めている(法114条2項)。
(B)信書の発受
旧監獄法時代は、相手方は親族に限定され、発受通数も月に1通(懲役受刑者)であり、検閲がなされた。しかし、新法は、受刑者の信書の発受について、犯罪性のある者その他その発受により刑事施設の規律及び秩序を害し、又は矯正処遇の適切な実施に支障が生ずるおそれがある者を除き、誰に対しても、信書の発受を保障している(法126条、128条)。ただし、信書は事前の内容検査が予定されているが、刑事施設の規律及び秩序の維持・矯正処遇など必要があると認めた場合に検査できるものとし、さらに救済の不服申立書や処遇調査を行う弁護士等との間での信書は、原則として内容の検査はできないとされる(法127条)。また、発信の通数の制限は、1月に4通を下回ってはならないとして、最低保障通数を定める(法130条2項)。
(C)電話その他の政令で定める電気通信
旧監獄法時代は、信書以外の通信は一切認められなかったが、新法は、一定の要件のもとで、電話その他の政令で定める電気通信を認めている。
すなわち、受刑者が開放的処遇において処遇をうけていることその他法務省令で定める事由に該当する場合において、その者の改善更生又は円滑な社会復帰に資すると認めるときその他相当と認めるときに電話等の通信が認められる(法146条)。ただし、信書と同様の内容検査として通信傍受等が可能とされる(法147条1項)。