刑事政策の基礎「自由刑・施設内処遇・仮釈放と執行猶予」その1 | 刑事弁護人の憂鬱

刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ


刑事政策の基礎「自由刑・施設内処遇・仮釈放と執行猶予」その1

 

第1 自由刑の意義

 

1 自由刑とは、受刑者の自由を拘束する刑罰である。自由刑には、刑務作業を義務づける懲役(刑法12条)と義務づけない禁錮(刑法13条)、拘留(刑法16条)がある。拘留は1日以上30日未満の短期自由刑であり、刑務所ではなく拘留場に拘束される点で懲役・禁錮と異なる。

 

2 自由刑、特に懲役刑は近現代刑法の中心的な刑罰で有り、罰金刑などの財産刑を除いて、刑罰の原則形態といってもよい。自由を拘束し刑務所等での施設内処遇という点で懲役と禁錮を区別すべきでないとする主張もある(自由刑単一化論)。これに対し、禁錮は政治犯、過失犯などのように非破廉恥罪に科せられるものであり、道義的責任の観点から他に破廉恥罪と質的に異なるのであり、懲役と禁錮を区別すべきとの批判もある(破廉恥罪・非破廉恥罪区別論ないし懲役・禁錮区別論)。しかし、施設内の開放処遇などの観点から両者を区別する実際的意義は見いだしがたく、刑務作業の点も禁錮刑受刑者も任意に行うこともあり(請願作業 禁錮受刑者の9割といわれる。)、社会復帰の点からも区別をする意味はない。区別論のいう「政治犯には名誉拘禁」とする考えは、伝統的歴史的沿革の意味しかないであろう(禁錮刑の言い渡しも現実には少ない。)。刑事政策論的には単一化論を支持してよいと思われる。

 

3 自由刑には期限の定めのある有期刑、期限の定めのない無期刑がある。※

  懲役禁錮の有期刑は、1月以上20年以下であるが(刑法12条1項、13条1項)、各犯罪類型によって、法定刑の上限と下限は異なる。たとえば、殺人罪の有期懲役は下限が5年以上である(刑法199条。上限は上記規定により20年以下となる)。窃盗罪の有期懲役は上限が10年以下である(刑法235条。下限は上記規定により1月以上となる。)。

  刑事裁判における刑罰の適用は、認定された犯罪事実に対応する罰条の記載の法定刑を基準とし、刑の種類を選択し(選択刑)、加重減軽事由を考慮した上で(処断刑 加重減軽の順序は①再犯加重、②法律上の減軽、③併合罪の加重、④酌量減軽[刑法72条])、具体的な刑期による宣告刑となる。有期刑の加重は、上限が30年まで可能である(刑法14条2項)。逆に有期刑の減軽は下限を1月未満まで下げることができる(同条項)。

  たとえば、窃盗罪(10年以下の有期懲役)と強盗罪(6年以上20年以下の有期懲役)を併合罪として加重する場合は、重い法定刑である強盗罪の有期懲役の上限20年の1.5倍、つまり上限30年の有期懲役となる。下限も重い法定刑である強盗罪の6年となる(東京高判昭和35・4・19参照)。※※

  しかし、処断刑で設定される有期の自由刑においても上限と下限の幅があることにかわりはなく、その幅の中での具体的な宣告刑は、同種の事件との刑の均衡等を考慮した、いわゆる「量刑相場」を参考に決定されるといわれる。後述するように執行猶予は3年以下の懲役または禁錮に付すことができるところ、懲役・禁錮刑の言い渡しのうち、全体の6割が刑の執行猶予が付されている運用であり、現実の宣告刑は3年以下の下限に集中しているとの指摘が可能である。※※※

 

※不定期刑

 無期刑の区別されるものに不定期刑がある。不定期刑とは、裁判所で具体的な刑期をさだめないで宣告する刑をいう。これには刑期を全く定めない絶対的不定期刑、長期と短期を定めて宣告する相対的不定期刑がある。絶対的不定期刑は罪刑法定主義に反するため、刑法には存在しないが、相対的不定期刑は少年法に存在する(少年法52条1項)。現行刑法は不定期刑ではなく定期刑を採用していると解される(刑法242項、28条参照。)。なお、相対的不定期刑を刑法に加える立法案として戦前の刑法仮案91条以下、戦後の刑法草案59条がある。立法例としては、19世紀から20世紀半ばのアメリカでの不定期刑制度がある。

少年法52条の相対的不定期刑は、少年の可塑性に鑑み、少年の改善の度合いに応じて処遇に弾力性をもたせる趣旨とされるが、実際には長期を上限とする定期刑に近い運用がなされているともいわれる(川出=金・刑事政策89頁参照)。刑法仮案や刑法草案のように相対的不定期刑を刑法に導入すべきかの政策論の是非に関して、行為責任、人格責任、幅の理論など責任と量刑にかかわる理論的問題が議論されている(川出=金・前掲87頁以下参照)。詳細は、別項「量刑法の基礎」で論じる予定である。

 

少年法52条

   1項「少年に対して長期三年以上の有期の懲役又は禁錮をもって処断すべきときは、その刑の範囲内において、長期と短期を定めてこれを言い渡す。但し、短期が五年を超える刑をもって処断すべきときは、短期を五年に短縮する。」

2項「前項の規定によって言い渡すべき刑については、短期は五年、長期は十年を超えることはできない。」

3項「刑の執行猶予の言渡をする場合には、前二項の規定は、これを適用しない。」

 

 

※※平成16年刑法改正による有期刑長期の上限及び上限規制のかさ上げ

  従来、有期刑の上限が15年、加重しても20年が上限であった(平成16年改正前刑法12条、13条、14条)。この旧規定では、強盗の有期刑の上限が15年であったから、1.5倍での併合加重だと22年6月となるところ、旧14条により20年に制限された。つまり加重上限規制により、刑が軽くなっていた。しかし、平成16年改正刑法の規定により、前述のごとく加重刑と上限規制が合致しているので、このような制限による不合理は併合罪加重の場合はなくなっている(むしろ30年の上限規制は長期の2倍とする再犯加重がある場合[長期が20年で加重すると40年になる。刑法57条]に意味をもつことになろう。)。

 

※※※短期自由刑の問題

 いわゆる短期自由刑とは、6ヶ月未満の自由刑である(ドイツ刑法47条1項参照)。

日本の刑法では、制度上は拘留が短期自由刑にあたるが、懲役、禁錮刑も6ヶ月未満であれば、これにあたる。従来から、短期自由刑は、刑期が短すぎ、改善更生に役立たないとか、常習者との接触から悪影響を受けるとか、過剰拘禁が生じる、一般予防にも無力であるなどの弊害がいわれ、短期自由刑を科す場合は、立法上制限を置く例もある。

 ドイツ刑法

  47条1項「行為又は行為者の人格に存する特別な事情により、自由刑を科すことが、行為者に対する効果のため又は法秩序の防衛のために不可欠である場合に限り、裁判所は6月未満の自由刑を科す」

 

 日本の刑法は上記のような制限規定はなく、刑事司法実務の運用も、6ヶ月未満の自由刑を宣告することが少なく、執行猶予、起訴猶予、罰金刑の活用により、短期自由刑の問題は生じにくい。かつては、いわゆる代用監獄の留置場においての拘留の執行を問題視する見解も有力であった(団藤重光・刑法綱要総論第3版500頁参照)。立法論的には短期自由刑に代えた代替的罰金刑制度が主張された(戦前の刑法仮案691項が6月以下の懲役禁錮を対象とする。ドイツ刑法472項参照)。

 他方、短期自由刑に対しては、弊害論ではなく、積極的評価もある。たとえば、イギリスの少年の短期処遇、1990年代にはやったアメリカのショック拘禁ないしブートキャンププログラムがこれにあたる。短期に厳しい訓練を行って改善効果を上げるという処遇である。もっとも、最近では改善効果に疑問ももたれている(川出=金・前掲85頁から86頁参照)。