この「共同義務の共同違反」に対しては、同時犯解消説から以下のとおり、批判がある。
第一に過失の共同正犯を肯定することは、その処罰範囲は、極めて広範なものとなり、危険に満ちた現代社会を前提とする場合、過剰な刑事的なコントロールとなるが、肯定説が援用する処罰限定論理としての「共同義務の共同違反」は、共犯理論からは論理的に導き得ない外在的制約でしかない(西田・前掲383頁参照)。
第二に「共同義務」の内実は、結局横の関係における相互監視義務に基づく一種の監督過失であり、過失同時犯を認めれば足りる(西田・前掲383頁、前田・前掲506頁、高橋・前掲438頁等)。
第一の批判は、理論面のものであるが、肯定説は、過失犯における共同実行を「共同義務の共同違反」と表現するものであって、過失の共同実行の内実からくる、むしろ「内在的制約」である。なお、否定説の中には、共同正犯の心理的因果性や意思の連絡(共同実行の意思)を強調し、共同正犯の原理と整合しないとするものもあるが、既に指摘したとおり、故意の共同正犯と並行的に過失の共同正犯の主観的要件を理解しなければならない論理必然性はない※。
第二の批判は重要であり、「共同義務」の内実をどう理解するのか問題である。同時犯解消説のように共同義務=相互監視義務と理解するならば、相互監督過失を認めて、過失の共同正犯を認める実益はないともいえそうである。
世田谷ケーブル事件の場合、確かに相互監視義務を前提にすると自己のトーチランプの消火確認義務を怠ると同時に相手方のトーチランプの消火も指さし確認する義務を怠ったという二つの注意義務違反のいずれかにより火災を発生させたとみて、因果関係を肯定し過失同時犯を肯定することができる(松宮・後掲論文166頁参照。しかし、この場合、どちらの行為かあるいはどの不注意から結果が発生したのか不明な場合でも因果関係を認定することは、いわゆる択一的認定の問題となるが、その解釈いかんによっては、因果関係を肯定できない場合があり得る。)。
しかし、「共同義務」の内容を相互監視義務に限定すべきなのか、また、相互監視義務は、過失単独犯において、常に認められるのか、特に結果回避措置の履行が単独では不可能であり共同での結果回避措置でしか結果が回避できない場合、過失同時犯に解消することは困難ではないか(個別の仮定的因果関係が認定できない)という批判がある(松宮孝明・『「明石歩道橋事故」と過失犯の共同正犯について』立命館法学2011年4号166頁以下参照)。
また、上位関係により排他的支配関係等の保証人的地位にある監督者には、監督監視義務は認められるが、水平的関係においては監督監視義務はなく相互監督過失は認められないという批判も可能であろう(山口厚・問題探求刑法総論276頁以下参照)。さらに過失作為犯の共同作業の事案でも過失同時犯に解消することはできない。
そもそも、共同義務の内実は、相手方の結果回避措置を促す義務だけでなく自己による結果回避措置を行う義務も含み、かつ共同して結果回避措置を行わなければ結果を回避できない場合に共同行為者に課せられる「共に結果を防止する義務」と理解すべきである(松宮・前掲論文168頁以下参照※※)。同時犯解消説は、水平関係において監視義務を肯定し、単独過失犯の結果回避義務を過度に拡張し、故意であれば、幇助的な場合まで過失正犯とするに等しく、実質的にみて過失犯について拡張的正犯概念を採用するものと理論的批判は可能である(松宮・前掲論文175頁参照。この意味で、高橋・前掲438頁が同時犯解消説をとり、過失犯において拡張的正犯概念【統一的正犯概念】を採用することは理論的に一貫している。)。
よって、単独過失犯においての結果回避義務は、結果回避措置を単独で果たして結果が回避可能な場合に限定されるものであり、他の共同者と共同で回避措置を行わなければ結果を回避できない場合に課せられるものではないのであり、過失犯においては、このような意味で制限的正犯概念が妥当するのである。
※共同実行の意思と過失の共同正犯
故意の共同正犯の共同実行の意思と並行的に理解すると故意の共同に類似した主観的意識的結合を過失の共同実行の意思と要求しがちである。しかし、過失犯は結果の認識認容を欠く非故意の行為であるから、意思的結合といっても、せいぜい行為共同説的な自然的事実的行為の共同のレベル程度の緩和要件でも足りるのではないか。学説がこだわるのは、過失同時犯との区別のためであるが、それは「共同義務」の有無という観点で区別すればたりるというべきである。それをこえてあえて「共同実行の意思」に重きをおくのならば、過失の実行行為である「許されない危険な行為」の共同の意思ないし意思の連絡を要求し、過失の共同正犯を認識ある過失の場合に限定する解釈も可能かもしれない。なお検討を要する。
※※共同義務の類型化
松宮・前掲論文178頁は、「共同の注意義務」には、①複数の人物が共同して危険な作業に当たる事例について、その作業に出ないこと自体が義務となる場合、②その作業の際に互いの行為についてもその安全を確認しあう義務のある場合、③安全を確認して結果を防止する義務が同じ作業に従事する複数の人物に重畳的に課せられている場合、④協力し合って結果を防止すべき義務が複数の人物に課せられている場合などがあるという。