(3)供述調書等の書面は、証拠として利用する以外に証人尋問の際、一定の場合、書面(または物)を示して尋問するという形で利用することができる(規則199条の10乃至12)。利用する書面等が証拠調べが終わっていないときは、事前に相手方に閲覧の機会を与える必要があるが、異議がなければ不要である。
① 書面の成立、同一性その他これに準じる事項の尋問(規則199条の10)。書面の種類、証拠能力の有無を問わない(石井・前掲323頁)。
② 裁判長の許可を受けて記憶喚起のため供述録取書以外の書面を示して行う尋問(規則199条の11)。供述録取書以外の書面について証拠能力を含め制限はない(法曹会編・刑事訴訟規則逐条説明公判108頁)。ただし、証人の供述に不当な影響を及ぼしてはならない(③の場合も同じ)。
③ 裁判長の許可を受けて証人の供述を明確にする必要があるときに図面、写真、模型等を利用して行う尋問(規則199条の12)。証人が尋問の際、図面を書いたり、図面や写真に位置を書き込むのもこの場合に当たり、証人が作成した図面等は、公判調書に添付して調書の一部として扱う(規則49条)。
刑事訴訟規則
(書面又は物の提示・法第三百四条等)
第199条の10
1項 「訴訟関係人は、書面又は物に関しその成立、同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは、その書面又は物を示すことができる。」
2項「前項の書面又は物が証拠調を終つたものでないときは、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。ただし、相手方に異議がないときは、この限りでない。」
(記憶喚起のための書面等の提示・法第三百四条等)
第199条の11
1項 「訴訟関係人は、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、書面(供述を録取した書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。」
2項 「前項の規定による尋問については、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない。」
3項 「第一項の場合には、前条第二項の規定を準用する。」
(図面等の利用・法第三百四条等)
第199条の12
1項 「訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。
2項「前項の場合には、第百九十九条の十第二項の規定を準用する。」
4 弁護人立証と伝聞証拠
(1)証拠能力があり、適式な証拠調べを経た証拠に基づく証明を「厳格な証明」という。供述調書等伝聞証拠との関係でいえば、非伝聞または伝聞例外の要件を満たし(証拠能力の肯定)、法令の定める手続きによる証拠調べ(朗読等)を経た供述調書に基づき公訴犯罪事実を認定することをいう。刑訴法317条は、「事実の認定は、証拠による」とあり、通説は、「公訴犯罪事実(刑罰権の存否及び範囲を定める事実)の認定は、証拠能力のあり適式な証拠調べを経た証拠による」と解釈し、同条は、「厳格な証明」を定めたものと理解している。
(2)これに対し、「厳格な証明」によらない証明を「自由な証明」という。量刑事実は自由な証明で足りるといわれるが(判例・通説)、実務と一部の学説では「厳格な証明」ないし「適正な証明」を適用して「自由な証明」には消極的である。
(3)弁護人立証としては、公訴犯罪事実の存否に関して、単純否認、自白、正当防衛等犯罪成立阻却事由の存在、刑を軽くするための量刑に関する事実(被害弁償、示談等)主張、立証ないし反証を試みる。「厳格な証明」は正当防衛、アリバイの事実に関する主張・立証にも適用される。しかし、弁護人立証として、正当防衛、アリバイに関する書証の取り調べ請求しても、検察官が不同意すれば、証拠とすることができなくなる。もちろん、供述調書等の書面について、非伝聞としての利用、伝聞例外に該当することの主張立証により、無罪等を争うことになる。量刑事実については、判例は自由な証明に立脚するが、実務の今日の状況では、示談書等の証拠請求に当たって、同意不同意の確認、宣誓を経た情状証人の証言などにより量刑事情が認定され、むしろ「厳格な証明」によっている。
(4) しかし、被告人、弁護人側の証拠収集能力は、捜査機関、検察官側の捜査能力に比べて劣る。伝聞法則の適用等により証拠能力制限が及ぶと弁護人立証は非常に困難となる。証拠能力のある証拠がないために無罪立証ができないことは不合理で有り、無罪判決には証拠の標示は不要であること、当事者対等主義(被告人当事者主義)及び被告人ためのデュープロセスの保障の理念から弁護人立証には厳格な証明ではなく自由な証明で足りる、すなわち弁護側立証に伝聞法則を適用しないという見解にも合理的理由はある(片面的構成説。田宮・前掲291頁参照)。ただ、刑事訴訟法の規定は、被告人、弁護人の立証にも伝聞法則の適用を前提とする表現、たとえば、326条1項「検察官及び被告人が証拠とすることに同意した」、320条1項「証拠とすることができない」と検察官立証に限定する文言はないことから、立法論としてはともかく解釈論としては難しい。そこで、既述した非伝聞、伝聞例外、証拠物たる書面、尋問の際の書面の尋問者への提示などの工夫や、検察官手持ち証拠の開示(公判前整理手続きにおける類型証拠開示請求、任意証拠開示の要請、裁判所の証拠開示命令等)の活用により、弁護人立証の実質的対等をはかるべきであろう。
第5 おわりに
日本の刑事裁判は、かつて供述調書等の書証を多用し、大半が自白事件(自白調書への依存)、同意書面の多さから、「調書裁判」であるとか、動機や背景事情等緻密に調べ、検察官は無罪の可能性があるものは起訴しない反面、起訴された事件の有罪率は99パーセント近くまでなったことから「精密司法」であるとか「検察官司法」という評価がなされた。「虚偽自白」によるえん罪や見立て捜査の所産である捜査官の「作文」的供述調書などの問題点の指摘は、各種刑事訴訟法の教科書や研究者の諸論文を参考していただきたい。
ただ、自白依存、伝聞証拠の例外、同意書面等が一方で調書裁判の要因であっても、他方で、伝聞証拠(供述調書)に対する同意不同意の活用は、証人尋問等の公判審理の充実化、当事者主義の攻防を際立たせ、特に被告人、弁護人側のイニシアチブの契機となることは重要で有る。その意味で、伝聞証拠と供述証拠の刑訴法の基礎知識(実務的な部分を含む)を再確認する意義がある。
なお、公判前整理手続きと裁判員裁判の導入が、公判中心主義、口頭主義、直接主義をより活性化させ、調書裁判からの脱却が計れるかどうかは今後の運用の展開をみて評価していくことになろう。
主要参考文献
平野龍一・刑事訴訟法(1958年 有斐閣)
田宮裕・刑事訴訟法 新版(1996年 有斐閣)
田宮裕=多田辰也・セミナー刑事手続法 証拠編(啓正社 1997年)
土本武司・刑事訴訟法要義(1991年 有斐閣)
藤木英雄=土本武司=松本時夫・刑事訴訟法入門 第3版(2000年 有斐閣)
石井一正・刑事実務証拠法 第5版(2011年 判例タイムズ社)
監修 松尾浩也・条解刑事訴訟法 第4版(2009年 弘文堂)