刑事手続きの基礎「伝聞証拠と供述調書」(下)その3 | 刑事弁護人の憂鬱

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2 一部同意・不同意の意義と機能

(1) 既述したとおり、伝聞証拠に対する同意不同意は、その書面の一部分という限定的な場合も認められる。たとえば、参考人の員面調書中、「事件の前日、被疑者が被害者と口論し、『殺してやる』と怒鳴っているのを目撃しました。」の部分を弁護人が不同意し、その他を同意する場合である(量的一部同意ないし量的部分同意)。

このような一部同意・不同意は正確を期すため、書面で行うことが一般である。すなわち、弁護人は、証拠意見書において、たとえば「平成※※年※月※日付警察官面前調書(目撃者※※)の※頁上から2行目「事件」から3行目「目撃しました。」まで不同意、その余は同意する」と記載して提出する。検察官は事前に不同意部分の連絡を受け、その部分をマスキングした供述調書を用意する。裁判所は、同意された部分についてのみ供述調書の取り調べを決定し、同意部分のみ朗読が行われる。不同意部分については、証拠調べ請求を撤回するか留保するかの選択が可能であるが、検察官の立証方法としては、請求を留保し、目撃者の証人請求をして、尋問終了後、321条1項2号後段書面として請求するか、あるいは撤回するのが一般的である。

弁護人側として、このような一部同意・不同意をする意味は、供述調書の中には争いのない部分や被告人に有利な部分も含まれていることもあり、一部同意をするメリットがあること、一部を不同意にすることは、争点を絞り込むことにより、反対尋問を効率的に行える点にある。まさに伝聞法則の適用と同意によるその解除(例外)が、被告人(弁護人)の反対尋問権の実質的保障に貢献することになる(通説である反対尋問権放棄説は、このような同意・不同意の機能を重視するものであるといえる。)。

 被告人供述調書の場合の一部同意・不同意も、有利な部分は同意し、不利な部分は不同意にするといメリットのほか、とくに自白部分については、不同意の理由として「任意性を争う」ことを明示することにより、検察官の任意性立証の必要性を喚起し、そのための証拠請求を促すことになる。具体的には、実務の運用上、次の順序で進められる(石井一正・刑事実務証拠法第5版118頁以下参照)。①まず、裁判所は、弁護人側に任意性を争う具体的事実を主張させる。争点明確化のためである。それは、概括的類型的な「脅迫による」とか「誘導による」とか「約束による」自白などの主張でたりる。②証人尋問等の前に被告人質問を実施する。③さらに検察官が取調官の証人請求、取り調べ状況報告書等の取り調べなどを請求する。

 (2) また、同意の効力の範囲の裏面として、特定の立証趣旨(要証事実)の範囲に限定する一部同意・不同意がある(質的一部同意ないし質的部分同意)。

たとえば、告訴状を告訴の事実という立証趣旨の限度(範囲内)で同意する場合である。かかる場合は、告訴の事実以外、つまり告訴の内容である犯罪事実の認定に告訴状を用いることはできない。このような限定が明示されていなくても、犯罪事実等の争う態様や証拠の性質上から「黙示の限定」と解される場合は質的一部同意・不同意があったと解すべきである(石井・前掲100頁以下参照。)。前例でいえば、犯罪事実を被告人が争っている場合は、「黙示の限定」の質的一部同意と評価することになる。

 (3) 一部同意・不同意は、検察官立証の観点から見ると、立証方法の選択・順序の方向性を決定する指針である。弁護人立証の側から見ると、どのような供述調書を一部同意・不同意するかにより防御方法の絞り込みとともに争点の明示化を自己のイニシアチブにより決定できるということである。裁判所にとっては、争点の明確化とともに証拠の採否及び証拠の使用範囲(目的)の第一の決定基準となる。

このように一部同意・不同意は、伝聞法則の適用範囲を当事者のイニシアチブに委ね(当事者の意向により裁判所は一定範囲で証拠採否の制限を受ける)、争点明確化と立証活動の指針・効率化を図るという意味で、罪状認否や冒頭陳述とともに公判審理における当事者主義的機能を果たすものである。

3 証拠物たる書面と書面等を利用した尋問

第305条

1項「検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調をするについては、裁判長は、その取調を請求した者にこれを朗読させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させることができる。」

2項 「裁判所が職権で証拠書類の取調をするについては、裁判長は、自らその書類を朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させなければならない。」

3項 「第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつたときは、前二項の規定による証拠書類の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。」

4項 「第百五十七条の四第三項の規定により記録媒体がその一部とされた調書の取調べについては、第一項又は第二項の規定による朗読に代えて、当該記録媒体を再生するものとする。ただし、裁判長は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、当該記録媒体の再生に代えて、当該調書の取調べを請求した者、陪席の裁判官若しくは裁判所書記官に当該調書に記録された供述の内容を告げさせ、又は自らこれを告げることができる。」

5項「裁判所は、前項の規定により第百五十七条の四第三項に規定する記録媒体を再生する場合において、必要と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、第百五十七条の三に規定する措置を採ることができる。」

第306条

1項「検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠物の取調をするについては、裁判長は、請求をした者をしてこれを示させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させることができる。」

2項 裁判所が職権で証拠物の取調をするについては、裁判長は、自らこれを訴訟関係人に示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させなければならない。」

第307条 証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについては、前条の規定による外、第三百五条の規定による。」

(1) 供述調書等の伝聞書面は同意がなければ、当然伝聞法則の適用があり、例外規定に該当しなければ証拠することはできない。たとえば、被告人の居室から発見された犯行計画メモを検察官が証拠調べ請求した場合に、弁護人側が不同意をして、そのため、検察官が322条で証拠請求をしたが、被告人が「自分が書いたものではない」と述べ、よって、同条の該当しない場合、検察官はどうするか。この場合、検察官は、「証拠物として」取り調べ請求することがある。すなわち、「証拠物たる書面」としての請求である。

(2)証拠物たる書面」とは、書面を非供述証拠として、つまり伝聞法則の適用がない証拠として用いる場合であり、証拠物中書面の意義が証拠となるものである(307条)※。

典型的な非供述証拠である「凶器のナイフ」は証拠物として取り調べ請求され、要証事実との関連性が示される限り、その存在、形状について取り調べが行われる。伝聞法則の適用はないので、同意・不同意の確認は不要である(石井・前掲92頁)。

通常の証拠物の取り調べ方式は展示であるが(306条)、「証拠物たる書面」の取り調べは展示のほか朗読・記録媒体の再生である(307条、305条)。前例の「犯行計画メモ」を「証拠物たる書面」として請求する場合は、「犯行計画メモ」そのものの物的存在・状態のみが証拠となり、メモ(書面)内容の真実性立証に用いる、つまり犯行計画がなされた事実を立証するための伝聞証拠にはならない。

よって、伝聞法則の適用を受ける証拠書面と適用を受けない証拠物たる書面の区別は、書面の内容のみが証拠となるか、書面そのものの存在・状態が証拠となるかによる(最判昭和27・5・6、田宮・前掲323頁)※※。

 

 ※供述証拠と非供述証拠

  伝聞証拠は供述証拠であり、伝聞書面はその典型である。しかし、前述したとおり、書面の中身ではなく、その物的存在、状態が証拠として、つまり非供述証拠として意味をもつ場合、脅迫文書、わいせつ文書、偽造文書などがある。これは、非伝聞つまり言葉の非供述証拠としての利用である。逆に供述・言葉でなくても供述的意味で使用する場合、行為が供述の代用になる場合(伝聞たる行為)も考えられる(田宮・前掲371頁参照)。たとえば、被害者に写真を示して「あなたを殴ったのは誰か」との質問に被害者が写真に写っている若い男の一人を指さした場合、被害者が「私を殴ったのは写真に写っているこの若い男です」との供述したのと同じ意味である。

 ※※伝聞法則と写実的証拠

  写真、録音テープ、録画テープなどの写実的証拠の許容性にあたって、伝聞法則の適用を認める供述証拠と扱うか、適用を認めない非供述証拠としてあつかうかが問題とされる。供述証拠説、非供述証拠説、折衷説があるが、非供述証拠として扱ってもその関連性立証(対象[被写体・音声]についての記録の正確性の吟味)のベストな方法は、撮影者等記録をした者らの状況説明であるから、供述証拠として伝聞法則及びその例外として321条3項の適用要件の立証方法と大きな差はないことになる(田宮・前掲328頁参照)。ただし、非供述証拠説のメリットは、撮影者・記録者の尋問によらず、他の証拠でも「関連性」の立証が認めることができる柔軟性・弾力性にある。ちなみに判例は、犯行現場の写真について非供述証拠説をとる(最決昭和59・12・21)。録音テープも犯行現場の状況・音声それ自体の存在を立証する場合は非伝聞=非供述証拠であるが、供述の意味内容の真実性が問題となる場合は供述証拠であり、供述書面に準じて伝聞法則及びその例外の適用(準用)となる。録画テープについて映像部分は写真に準じ音声部分は録音テープに準じて扱うべきである(田宮・前掲328頁~329頁参照)。なお、録音テープ、録画テープ等の取り調べは、展示のほかテープ等記録媒体の再生によるべきである(録音テープの再生につき最決昭和35・3・24)。