判例評釈 「ビラ配りが風営法における「客引き」に当たらないとされた事例」その8 | 刑事弁護人の憂鬱

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判例評釈 「ビラ配りが風営法における「客引き」に当たらないとされた事例」その8



(評釈)捜査協力者の供述の信用性

1 証人の供述の信用性は、他の証拠から認められる客観的事実との整合性、目撃時の客観的状況、被告人との利害関係、証人の記憶の正確性、同人の他の供述と矛盾がないこと、虚偽をいうおそれがないこと、供述態度等諸般の事情を考慮して判断される。

2 本件においては、①捜査協力者との立場の特殊性、②公判外の供述調書、ビデオ動画・公判廷での供述との整合性と供述調書を訂正しなかった理由の合理性、③公判廷での証人の態度を吟味して信用性を判断している。

3 まず、捜査協力者Cについて、「Cは,警察官から,客引き行為をしている者の取り締まりをするため,一般の通行人のように歩いて,客引き行為をされたら後でその状況を話して欲しいと依頼され,その報酬として金員を得た経緯があり,その供述の信用性については慎重に検討する必要がある。」と判示する。

その理由は、捜査機関の協力者としての立場から、捜査機関よりの供述をするおそれがあるからである。前述したとおり、違法なおとり捜査の効果として、端的に信用性ないし法律的関連性を否定することは、行わず、慎重に信用性を判断する姿勢を示す。

 次に、公判廷外の供述調書と公判廷での供述の相違部分を検討し、捜査協力を隠していたこと、客被状況、行為態様の相違、供述調書の訂正を申し出なかった理由を吟味した上で

「Cの前記の各供述調書の中で,本件路上を歩くに至った経緯や警察官に客引きの状況を話すに至った経緯などが,捜査協力であるのを隠すために,Cの公判廷における供述とが全く異っていることは,一応理解できる。」とする。

この「一応理解できる」というのは、Cの供述の当該相違部分が生じた理由、つまり、供述調書で虚偽をのべた理由が、「捜査協力であるのを隠すため」であることが「理解できる」の意味であり、本件捜査協力が「理解できる」意味ではない。

「しかし,Cが,被告人から声を掛けられる際の,被告人の動きや言葉,その後のCと被告人とのやりとりなど,本件の核心部分が,捜査協力であるのを隠すための理由で,Cの当公判廷での供述と供述調書と異なっていることは不合理で,被告人から声を掛けられることが大事だとC及び警察官が認識しながら,Cが被告人から最初に声を掛けられた言葉と述べる「キャバクラはどうですか。」については,平成22216日付け警察官調書には記載されておらず,同調書には「男性が近寄ってきて, 3 9 0 0円の飲み放題どうですか,Bです,若い子いますよ,などと声をかけてきました。」などと記載されていることについては,理解し難い。警察官が,捜査協力をCに依頼して事情を聞いたこと,警察官が本件の状況をデジタルビデオカメラで撮影していたことからすると,Cの供述調書と公判供述とが一致していないことは非常に不自然で不合理である。Cは,調書と公判廷での供述が違う理由について,前記のとおり縷々述べるが,捜査協力のために捜査官に供述しているにもかかわらず,調書の内容を確認していない,違っていると,思いながら訂正を求めなかったなどと述べ,その供述態度は非常に問題である

そうすると,Cの公判廷での供述の信用性には問題があると言わざるを得ない。」

補足すると、Cは、事件直前、捜査協力の依頼をうけた際に、自ら声をかけず、相手の声かけ、発言を注意するよう警察官に指示をうけていたとのべており、「声かけ」=「キャバクラはどうですか」の態様が本件捜査協力について重要部分であった認識していたのであり、それにもかかわらず、「Cが被告人から最初に声を掛けられた言葉と述べる「キャバクラはどうですか。」については,平成22216日付け警察官調書には記載されて」いなかったのである。証人が意識していたはずである被告人の言動が、事件直後の供述調書に記載されていないことの理由が明白でない、つまり「理解し難い」のである。さらに裁判所は、ビデオカメラとの不一致を指摘し、「捜査協力のために捜査官に供述しているにもかかわらず,調書の内容を確認していない,違っていると,思いながら訂正を求めなかった」ことを指摘し、その「供述態度は非常に問題である」というが、はっきりいえば捜査官のいいなりの供述調書作成を黙認したということである。したがって、Cの公判廷での供述の信用性を否定する判示は正当である。

4 次に 捜査協力者Dについて、Cと同様にその供述の信用性について慎重に検討する必要があるとし、相違部分を指摘した上で、「Dの公判供述は,それ自体にあいまいな点が多く,甲第12号証及び甲第13号証によると,被告人が,いきなり,CやDの前に飛び出すような感じで右側から歩いてきて進路をふさいだ状況にはなく,供述調書の内容が,客観的な状況に符合しておらず,Dの供述調書と公判廷での供述が異なる点は看過できない。そうすると,Dの公判廷での供述の信用性には問題があると言わざるを得ず,Dの公判廷での供述から,被告人が,Cに対し「キャバクラいかがですか。」と声を掛けたと認めることは難しい。」と判示する。

Cの場合と同様の観点から信用性を否定しており、結論は正当である。

 若干補足すれば、Dの供述態度は、C以上に曖昧なところが多く、捜査協力に関することや捜査協力を口止めされたかどうか等について真摯な態度で供述したとはいえない状況であったので、Dの供述態度の印象は、本件公判での心証形成に大きな影響を与えていると思われる。

なお、実際に証人尋問を行った弁護人の立場からの雑感であるが、CDともに十分な検察側の証人テストをしていないのではないかと思われるふしがあった。すくなとも検察官尋問について証人CDの対応はスムーズではなかった。