判例評釈 「ビラ配りが風営法における「客引き」に当たらないとされた事例」その3
「5 C及びDの供述について
(1 ) Cの公判供述
ア Cの公判供述の要旨
横断歩道を渡りかけたとき,被告人が足を1歩,私たちの方に踏み出したような感じで,右手を水平よりも若干下向き斜め横に出して「キャバクラはどうですか。」と声を掛けてきた。被告人の出した手は,まっすぐ歩くと障害になる位置であった。被告人が,ビラやカードのようなものを見せてきたり手渡したりしてきたかは余り覚えていない。私は立ち止まって「じゃあ幾らですか。」と聞き,被告人は,「3900円です,店の名前がBで,若い子がいますよ。」などと言っていた。Dも一緒に立ち止まったが,黙っていた。被告人が,両手を広げたりする動きをしていたかは覚えていない。Dは,警察官の方へ帰るように予め指示されており,私が,Dに対し,おれは飲みに行くけど,おまえはどうするかと言うと,Dは,明日仕事があるから帰るよと言って,その場を離れた。その後,被告人が,インカムでお店の違う人に連絡を取って,大きい道路の向こう側に,手を挙げている人がいるので,そっちの方に向かつて歩いていってくださいと言われ,そのとおりにすると,別の人がいて,Bに案内された。Bで飲食し,予め警察官から渡された2万円から飲食代を支払った。Bを出て警察官に電話をし,迎えに来た警察官の車に乗って,車内で客引きされた状況を話した。
イ Cの公判供述の信用性
(ア) Cは,警察官から,客引き行為をしている者の取り締まりをするため,一般の通行人のように歩いて,客引き行為をされたら後でその状況を話して欲しいと依頼され,その報酬として金員を得た経緯があり,その供述の信用性については慎重に検討する必要がある。
(イ) Cの公判供述は,前記アのとおりであり,Cは,当公判廷において,
捜査当初から,捜査官に,当公判廷で証言した前記アのとおり,話していた旨述べるも,Cの供述調書と異なる部分があるので検討する。
(ウ) 平成22年2月16日付け警察官調書について
Cの平成22年2月16日付け警察官調書には,①同級生とばったり会って2人で本厚木駅近くの笑笑で2時間ぐらい飲んだ,②客引きしてきた男に対して,あからさまに嫌な顔をした,③Bを出てから本厚木方向に歩き出すと,先ほどの客引き男性が同じ場所に立ってるのに気付いたけれども,また声を掛けられでもかなわないと,臣、ったので,その男の視界に入らないように気をつけながら本厚木駅に向方瓦った,④Bで飲食した後,駅前のスクランブル交差点で,私服の警察官から,客引きの状況について話を聞かせて欲しいと声を掛けられた,⑤被告人がしつこく前に立ちはだかつて,店の案内をしてきた,⑤男性が近寄ってきて, 3 900円の飲み放題どうですか,Bです,若い子いますよ,などと声をかけてきましたなどと記載されている一方で,同調書には,②被告人の方から先に,CやDに対して「キャバクラはどうですか。」などと言ってきたという内容は記載されていない。Cは,当公判廷において,①から⑤の内容は違っている旨述べ,甲第12,第13号証によると,被告人が,CやDの前にしつこく立ちはだかっている状況はなく,⑤は客観的状況と符号しない。Cは,当公判廷において,前記アのとおり警察官にも話し,①から⑤までの内容が違っている理由については,警察官調書の内容を確認して署名して指印したと述べる一方で,調書をよく確認しなかった,気付がなかったとも述べ,Cの警察官調書は,Cが,平成22年2月16日,神奈川県厚木警察署で供述し,同日,署名指印したとされるが,署名指印したのは同日から3,4日後で,警察官が自宅最寄り駅まで来て,サインしたとも述べる。
(エ) Cの平成22年5月17日付け検察官調書について
Cの平成22年5月17日付け検察官調書に,①D君と2人で,本厚木駅近くの居酒屋で生ビールを飲んだ,②自宅に帰るために,本厚木駅に向かつてD君と歩いていた,③客引きをされたときに,居酒屋でビールを飲んだ後で、したが,酒に酔っぱらっていたということはなく,飲み足りないくらいだった,④男性から客引きされて,まだお酒を飲み足りなかったし,クラブBというキャバクラには飲みに行ったことがなく,値段も安かったので,その店に興味がわき,行ってみたくなった,⑤客引きをされた状況について,男性が私たちの行く手を阻むような感じで私たちの前に立ち止まったなどと記載されている。
Cは,当公判廷において,①から④の内容は違っていて,検察官から警察の調書の内容はこうだよと言われて,知っている内容と違ったんだが,その内容のとおりにしたほうがいいんだなと判断して,そうしたと述べる。
⑤については,当公判廷での証言と違っているが,実際に,被告人が右手を上げている状態で,私がそのまままっすぐ歩くと,私の行く手を阻むことになるので,間違ってはいないだろうなと思って訂正を求めなかったと述べる。
(オ) Cの平成22年5月25日付け検察官調書について
Cの平成22年5月25日付け検察官調書には,①警察官に捜査協力を求められて,捜査協力をしたこと,②同月17日の供述調書に一部矛盾があること,③客引きされた状況について,男性が私とD君の前を横切るような感じで,私から見て右側から歩いてきて,私とD君の行く手を遮るような感じで立ち止まったなどと記載されている。
Cは,当公判廷において,①,②について同様に証言し,③については,当公判廷での証言と違っているが,実際に,被告人が私の方にちょっと踏み出したような感じで近付いて,右手を上げて,ちょっと遮っているので,それでもいいんだろうなと思い,訂正を求めなかったと述べる。
(カ) Cの前記の各供述調書の中で,本件路上を歩くに至った経緯や警察官に客引きの状況を話すに至った経緯などが,捜査協力であるのを隠すために,Cの公判廷における供述とが全く異っていることは,一応理解できる。しかし,Cが,被告人から声を掛けられる際の,被告人の動きや言葉,その後のCと被告人とのやりとりなど,本件の核心部分が,捜査協力であるのを隠すための理由で,Cの当公判廷での供述と供述調書と異なっていることは不合理で,被告人から声を掛けられることが大事だとC及び警察官が認識しながら,Cが被告人から最初に声を掛けられた言葉と述べる「キャバクラはどうですか。」については,平成22年2月16日付け警察官調書には記載されておらず,同調書には「男性が近寄ってきて, 3 9 0 0円の飲み放題どうですか,Bです,若い子いますよ,などと声をかけてきました。」などと記載されていることについては,理解し難い。警察官が,捜査協力をCに依頼して事情を聞いたこと,警察官が本件の状況をデジタルビデオカメラで撮影していたことからすると,Cの供述調書と公判供述とが一致していないことは非常に不自然で不合理である。Cは,調書と公判廷での供述が違う理由について,前記のとおり縷々述べるが,捜査協力のために捜査官に供述しているにもかかわらず,調書の内容を確認していない,違っていると,思いながら訂正を求めなかったなどと述べ,その供述態度は非常に問題である。
そうすると,Cの公判廷での供述の信用性には問題があると言わざるを得ない。」