書評 木谷明編「刑事事実認定の基本問題 第2版」(2010年 成文堂) | 刑事弁護人の憂鬱

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書評 木谷明編「刑事事実認定の基本問題 第2版」(2010年 成文堂)


裁判員制度の導入やロースクール(法科大学院)の教育の必要からか、ここ数年、実務家執筆の刑事事実認定に関する書籍、論文が多く出ている。その中で本書は、一番新しく、かつ事実認定に関する従来の議論をコンパクトにまとめている良書である。もともと木谷明元判事の古稀祝賀論文集として企画されたものだが、編者の意向として一般向けの書籍として出されている。執筆陣は、現役裁判官、元裁判官らであり、刑事事実認定においての具体的問題点をやさしすぎず、難しすぎずにまとめられている。もっとも、注書きを含め、熟読すると理論的にも高度なことが述べられており、実務家書籍にありがちな単なる「実務感覚」の吐露ではなく、実は学問的水準も、高度である。

帯び書きをみると、ロースクール生必読と書いてあるが、むしろ、裁判官、検察官、弁護士等実務家必読であろう。理論的高度かつ実践的な内容となっているからである。

 各論的な話もおもしろいが、やはり、木谷元判事の「はしがき」「あとがき」、「刑事事実認定の基本的あり方」がすばらしい。えん罪防止、無辜の不処罰を実践的にどう確保するか。実務でひからびた心に、力を与えてくれる。個人的には、学生時代に読んだ松本一郎著「事例演習教室 刑事訴訟法」の「前書き」以来かもしれません。


目次 (成文堂ホームページより)


第2版はしがき,初版はしがき


刑事事実認定の基本的あり方……………………………………木谷明… 1
 Ⅰ 緒論/Ⅱ 刑事裁判における基本的視点はどうあるべきか。/
 Ⅲ 冤罪の発生を最小限度に止めるために,どのような具体的方策を考えるべきか。/
 Ⅳ 結語
故意の認定――故意概念と法的評価の観点から―― …………半田靖史… 29
 Ⅰ 故意の意義/Ⅱ 故意の認定の難しさ/
 Ⅲ 心理状態の認定と故意の法的評価の関係/
 Ⅳ 故意犯における法的評価の内容/Ⅴ 最後に
自動車運転過失の認定……………………………………………植村幹男… 65
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 過失構造論/
 Ⅲ 過失の認定に際しての前提となる基礎知識/
 Ⅳ 過失の認定の実際/Ⅴ 認定上の注意点
因果関係の認定……………………………………………………米山正明… 81
 Ⅰ 因果関係の意義と問題の所在/
 Ⅱ 行為時の特殊な事情(被害者の素因)/
 Ⅲ 行為後の被害者の行為の介在/Ⅳ 行為後の第三者の行為の介在/
 Ⅴ 行為後の被告人の行為の介在/Ⅵ 不作為と因果関係/
 Ⅶ 総合的考察/Ⅷ 因果関係の審理と証明の問題/Ⅸ 終わりに(要約)
正当防衛の認定……………………………………………………中川博之…121
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 判例理論の概要/Ⅲ 侵害の急迫性/Ⅳ 防衛の意思/
 Ⅴ 防衛行為の相当性/Ⅵ 盗犯等防止法の特例
共謀の認定と判例理論……………………………………………朝山芳史…145
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 判例の展開/Ⅲ 共謀の意義/
 Ⅳ 暴力団のボディガ―ドによるけん銃の所持と組長の共謀共同正犯の成否/
 Ⅴ 融資等の取引の相手方と背任(特別背任)の共謀共同正犯
自白の証拠能力――木谷コ―トの実践例に学ぶ―― …………青木孝之…173
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 自白排除法則の根拠/Ⅲ 違法排除説への傾斜/
 Ⅳ 伝統的な判断枠組みとの関係/Ⅴ 綿密な審理/
 Ⅵ 挙証責任原則の徹底/Ⅶ 実質的な物の見方/Ⅷ 運命共同体論/
 Ⅸ 終わりに
自白の信用性………………………………………………………石塚章夫…195
 Ⅰ はじめに―足利事件の衝撃/Ⅱ 自白の信用性をめぐる裁判例/
 Ⅲ 自白の信用性評価をめぐる学説/
 Ⅳ 自白の信用性判断に関する注意則研究の「限界」/
 Ⅴ 自白の信用性研究の将来/Ⅵ おわりに
黙秘権の行使と事実認定…………………………………………門野博…223
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 問題の所在/Ⅲ 学説/Ⅳ 判例/Ⅴ 検討/
 Ⅵ 課題と展望―裁判員裁判における問題も踏まえて/Ⅶ 補論
犯人識別供述の信用性と裁判員裁判におけるその審理
 ――「危険な証拠」と裁判員制度―― ………………………木山暢郎…247
 Ⅰ 問題の所在/Ⅱ 犯人識別供述の信用性/
 Ⅲ 裁判員裁判と犯人識別供述の審理/Ⅳ 裁判員裁判と「危険な証拠」/
 Ⅴ おわりに
共犯者の自白の信用性……………………………………………波床昌則…285
 Ⅰ 問題の所在/Ⅱ 共犯者の自白と補強証拠の要否/
 Ⅲ 共犯者の自白の信用性についての指標/
 Ⅳ 共犯者の自白の信用性についての総合判断―
  (補論)裁判員裁判における共犯者の自白の審理の在り方
情況証拠による事実認定
 ――犯人と被告人との同一性をめぐって―― ………………中里智美…313
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 情況証拠による認定の構造について/
 Ⅲ 間接事実の認定について/Ⅳ 間接事実からの推認について/
 Ⅴ 間接事実積み重ね型事件の裁判員裁判―裁判員模擬裁判の経験から/
 Ⅵ おわりに
科学的証拠による事実認定―DNA 型鑑定を中心として……家令和典…339
 Ⅰ 捜査の科学化/Ⅱ 科学捜査の担い手/Ⅲ 科学的証拠の証拠能力/
 Ⅳ 科学的証拠に関する裁判例の動向/Ⅴ DNA 型鑑定/
 Ⅵ 足利幼女殺害事件/Ⅶ 大分みどり荘事件/
 Ⅷ DNA 型鑑定による事実認定の問題点/Ⅸ まとめ
違法収集証拠排除法則の認定……………………………………水野智幸…361
 Ⅰ 最二判平成15年2月14日(刑集57巻2号121頁)について/
 Ⅱ 違法収集証拠排除法則の認定・評価の留意点/Ⅲ その後の裁判例/
 Ⅳ 終わりに
薬物事犯における故意の認定について…………………………平城文啓…383
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 薬物事犯における故意/Ⅲ 犯罪行為についての認識/
 Ⅳ 対象薬物についての認識
量刑事実の立証……………………………………………………原田國男…403
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 量刑事実の立証方法/Ⅲ 被害感情の立証
裁判員裁判における事実認定に関する若干の考察
 ――事実認定に先行する手続に関する考察をも踏まえて――
  ……………………………………………………………………植村立郎…431
 Ⅰ はじめに/Ⅱ 総論的検討/
 Ⅲ 裁判員裁判における事実認定固有の事項以外の各論的検討/
 Ⅳ 裁判員裁判における事実認定に関する各論的検討/Ⅴ おわりに/
 Ⅵ 補論
 
 第2版あとがき,初版あとがき