実務から見た刑法総論その8 「正当防衛その4 防衛の必要性・相当性その1」
1 正当防衛とは①急迫不正の侵害に対し、②自己又は他人の権利を防衛するため、③やむを得ずした行為であり、罰せられない(刑法36条1項)。違法性が阻却され、犯罪が成立しないからである(通説)。そして、③の要件である「やむを得ず」を「防衛行為の必要性・相当性」ないし単に「防衛の相当性」の要件という。たとえ権利を防衛するためとはいえ、リンゴを盗もうとした少年を射殺してリンゴを盗まれないようにする行為は、いきすぎであり、正当防衛とはいいがたい。このような場合、「やむを得ず」した行為とはいえず、正当防衛は成立しない。このように正当防衛は「絶対権」ではなく、社会生活上必要かつ相当な範囲での態様のみが許容される。これを正当防衛の「社会化」という。
2 この必要性・相当性は、緊急避難のように「法益の均衡」「補充性」まで要求されるものではないが、正当防衛においては、①保全法益と被侵害法益が著しく均衡を失しないこと、②防衛手段の相当性(相対的必要最小限度性)などが、学説上、判断基準として提唱されている。さらに判断基準時として、行為時の事前判断か、行為後の事後判断か、判断資料として行為者の主観的事情を考慮すべきかどうかなども議論されている。
3 判例は、行為者の主観的事情はもちろん、行為者の年齢、身体能力、侵害者の攻撃の程度、反撃行為の危険性・その態様など諸般の事情を考慮して「やむを得ず」かどうかを判断する傾向がある。その中でも、「武器対等の原則」が指摘される。これは、単純にいえば、素手で殴りかかってきた侵害者に対し、ピストルで撃ち殺す行為のように侵害排除のため(防衛のため)の必要以上の強力な手段をもちいて攻撃することは許されないというものである。もちろん、形式的に武器の殺傷力一般だけを重視するものではない。
判例の分析は次回に譲る。
4 「やむを得ず」にした行為とはいえない場合、「その程度を越えた」行為、すなわち過剰防衛となる。過剰防衛は、正当防衛の上記①②③の要件のうち、①②はあるが③がない場合である。つまり過剰防衛は、必要性・相当性の要件の裏面である。刑法36条2項は、過剰防衛の場合、刑の減軽または免除をすることができると定める。その趣旨は、過剰防衛は、急迫不正な侵害に対し、防衛者が驚愕、動揺などから行き過ぎた行為に及ばないよう期待することは難しい(期待可能性、責任減少説)あるいは、責任減少に加え、過剰防衛は①②を前提としているので侵害者の法益の要保護性は減少している(違法減少・責任減少説)などと解されている。
5 過剰防衛は違法性は阻却されない違法な行為である。他方、上記にように過剰防衛は、刑の任意的減免が認められる行為である。だから、喧嘩闘争事案で、過剰防衛つまり刑法36条2項の適用すら認めたくない事案は、③の必要性・相当性の要件を否定する前の段階で①急迫不正の侵害または②防衛するため(防衛の意思)を否定するしかない。前述した積極的加害意思の判例理論が、③の相当性の要件ではなく、①ないし②の要件論の次元にこだわったのは、積極的加害意思の事案では、過剰防衛すら認めたくなかったからである。ここで、過剰事実に認識のある「故意の過剰防衛」、つまり過剰防衛の故意は、前述したように私見の立場では、積極的加害意思と同じであり、積極的加害意思は防衛の意思阻却事由と解するので、故意の過剰防衛は③の相当性のみならず、②の防衛の意思の要件も欠くことになる。よって、「故意の過剰防衛」は、本来の定義からすると刑法36条2項の過剰防衛ではない。そうすると過剰防衛とは過剰事実に認識のない「過失の過剰防衛」のみが本来的過剰防衛、つまり刑法36条2項の適用を受けるものと解することになる。過剰性に認識のない「過失の過剰防衛」の場合のほうが、防衛者の驚愕、動揺等による期待可能性減少の説明により適合的である(責任減少説)。そして、この帰結として、過剰防衛の裏面である、いわゆる誤想過剰防衛における刑法36条2項の準用の問題については、過剰事実の認識がある「故意の誤想過剰防衛」は、準用は否定され、過剰事実の認識がない「過失の誤想過剰防衛」は準用が肯定されることになる。
次回は、必要性・相当性の判断基準、類型化を判例の事案をふまえて検討する予定である。