証拠隠滅・犯人隠避罪 | 刑事弁護人の憂鬱

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証拠隠滅・犯人隠避罪


忙しくて、ブログ更新するゆとりがなく約1ヶ月ぶりの更新である。
「未必の故意(下)」はもう少し時間を(^_^;)


最近の話題として、大阪地検特捜部の証拠品フロッピー改ざんから証拠隠滅罪で特捜検事が逮捕されたことから端を発した事件は、上司の元特捜部長、副部長らの犯人隠避罪による逮捕により、組織的隠蔽の疑惑が濃厚となった。
事実関係は、追って明らかになるであろうが、検察庁の衝撃は甚大であろう。この問題自体、現段階では新聞の社説的なコメント、ヤメ検弁護士のコメントなど決まり切った発言が多いので、もう少し、情報が整理された段階で考察するのが妥当と思う。まさかと思うが、最高検察庁の捜査が、自白を迫る「糾問的捜査」を徹底しているのであれば、全く持って本末転倒のような気がするが…

さて、ここでは、クローズアップされた証拠隠滅罪(刑法104条)、犯人隠避罪(刑法103条)について概説する。


1 両罪は、証人威迫罪とともに刑事司法作用を侵害する罪であり、犯人庇護的性格をもつ。なお、両罪は、親族が犯人の利益のために行った場合に刑の免除ができるという親族間の特例がある(刑法105条)。


2 犯人隠避罪は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた」場合に、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金の刑となる罪である。現実に刑事司法手続きを妨げなくても成立する抽象的危険犯である(西田・刑法各論第4版補正版422頁参照)。
「罪を犯した者」とは、刑事被告人はもちろん犯罪の嫌疑者として捜査の対象となる者も含むと解するのが判例である。「蔵匿」とは場所を提供してかくまうこと、「隠避」とは蔵匿以外の方法で官憲による発見、身柄の拘束を免れさせる一切の行為をいう。逃亡資金を与えたり、第三者を身代わり犯人にしたりすることは、「隠避」にあたる。また判例によれば、警察官が現行犯を現認しながら、故意に見逃す不作為を「隠避」にあたるという。警察官等の公務員には犯罪に対して通報等の義務があり、不作為でも「隠避」に当たりうるのである。だから、話題になっている部下の故意の証拠改ざんを知りながら、何もしない、隠蔽する上司の検察幹部の不作為も「隠避」に当たりうる。他方、一般人には特別の場合を除いて犯罪告知、申告義務はないので、単なる不作為は原則として「隠避」に当たらない。


3 証拠隠滅罪は「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した」場合に、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金の刑となる罪である。法定刑は犯人隠避罪と同じである。
「他人の」刑事事件の証拠であるから、「自己の」刑事事件の証拠は含まれない。被告人、被疑者自身が証拠を隠滅することは期待可能性がないからとされる(通説)。「証拠」は、国家刑罰権の有無を判定するにあたり、関係があると認められる一切の資料をいい(判例)、他人の有利・不利を問わないし、文理上制限されていないので公判廷で請求されていないものも含む。もちろん、刑法38条1項により、証拠偽造は「故意」で行われることが必要である。また、現実の公判廷に検出されなくても、影響を現実に与えなくても、偽造が行われば、それだけで成立する。本罪も犯人隠避罪と同様に抽象的危険犯と解するのが妥当だからである。そうすると、話題になっている故意に改ざんしたフロッピーを弁護人側に返却しても、公判で証拠請求されなくても、本罪が成立することになる。


4 細かい論点、例えば共犯者の証拠(判例は含むという)の該当性、参考人の虚偽供述の該当性、犯人による犯人隠避、証拠隠滅の教唆の可罰性などは、教科書等を参照のこと。