インターネット・デジタル著作権の刑事規制その1 動画配信
10年くらい前、インターネットやコンピュータ犯罪を「ハイテク犯罪」と呼んで、刑事系の雑誌で議論されていたことがある。まだ、インターネット、携帯電話、メール等の普及の初期のころで、法律家の大半は「よくわからん」状態の時代の用語である。
最近では、実務の事件も警察、法律の対応もだいぶ「勉強」したようで、現実の規制、法制度も拡充してきている。
昨年、違法動画のダウンロードを行った著作権法違反事件を刑事弁護をしたことがあり、時代の変化を実感する。そこでの経験から少し考察してみたい。
よくある違法動画の事案は、テレビで録画した番組を権利者の承諾なくして、アップロードし、これを公衆に配信できる状態にする行為である(自動公衆送信罪)。YouTubeなどの動画投稿サイトがその温床といわれているが、民事事件で注目されたのがソニーのロケーションフリーという機器をもちいた「まねきTV」事件である。ロケーションフリーというのはPCでテレビ録画した動画を遠隔地のPCでネットを通じて視聴できる機器である。つまり、自分で録画した動画をネットを通じて別のPCで視聴するものだ。これ自体、自分のPCをサーバ化し、特定のPCに配信するというシステムである。他人のサーバにアップロードし、「公衆に」送信可能とすると自動公衆送信罪となるが、ロケーションフリーは、特定の自己のPCへの配信で私的利用(著作権法上許される)の範囲内として適法ということである。「まねきTV」事件はロケーションフリーを預かり、場所の提供等の管理をして料金をとっていた業者が訴えられた事件であったが、地裁、高裁では適法という判断がされている。ロケーションフリーが適法とされるのは、特定機器から特定機器への配信行為は、私的利用の延長と評価できるからであろう。
同様のシステムは、ソフトウェア的にも可能だ。たとえば、iPhoneのアプリでAirVideoというのがある。パソコンに専用ソフトをいれ、テレビ録画した動画をパソコンに保存し、ネットにつなぎ、iPhoneで視聴するものだ。これはパソコンをパーソナルビデオサーバ化し、パスワード(PINコード)で暗号化し、特定のiPhoneに対して動画配信するものである。これはパスワードを公開してしまうと不特定多数の送信、つまり、一歩間違えば自動公衆送信罪として違法となる。
このように個人的動画配信は、適法な私的利用の延長と違法な自動公衆送信の間を揺れ動く可能性がある。
個人が個人として、1対1の機器間の特定配信ならば、適法だが、これが1対多数になっていくと違法性になる度合いが高くなるとも評価もできるが(警察、検察実務は、ロケーションフリー事件等の民事裁判例を参考にこう考えているふしがある)、個人が複数の機器で視聴する場合も機器的には1対多数になるし、家庭内で家族が録画番組を視聴する場合とPCから家族がそれぞれのデバイスから録画番組を視聴する場合を区別し違法評価するのは少し疑問もある。 録画動画やビデオサーバを共有している場合に共有者への配信はどうなるのか。適法違法判断の不明確性は、まだまだ残るのである(構成要件的には公衆性の解釈となろうか。不特定性あるいは多数性の問題か。両者を要件とするか、あるいは択一的とするか、あるいは前者だけにするか。多数性を要件とすると2つのデバイスないし2人以上であれば即違法となるのはどうだろうか。反面、不特定性だけを要件とすると、特定されていれば100人でも200人でも適法というのも疑問。他方、問題は違法阻却ないし構成要件阻却たる私的利用の解釈との問題ともいえる。)。
技術のレベルで可能なことが法律上許されるか、法律はいつも後手後手であり、また、強い規制は、技術の発展を阻害し技術の利用及びそこから生じるビジネス、経済発展を妨げるとして、ネットの自由を主張する見解もありうる。Googleなどは、確信犯的に違法かもしれないグレーゾーンをあえて行い、トラブルを起こしては、問題提起を起こすとともに新たなビジネスチャンスをつくろうとする。同社が買収したYouTubeは違法動画を名目上禁止し、申告や自動探知システムによる違法動画を摘発するが、違法動画のアップロード自体を「技術的に」禁止していない(まだ困難かもしれないが)。つまり、違法動画として摘発削除されるまで、違法動画はそのままなのである。そして、グレーゾーンを違法の方向ではなく適法の方向にもっていこうとする。この手法には当然批判もある。図書館の書籍の電子書籍化とその配信でアメリカで訴訟になったこと(特に和解のトラブル)は記憶に新しい。
日本の最近のネット刑事規制は、違法動画配信を可罰的とする方向に動き、、かつては民事裁判でやっていたものが、刑事摘発へ方向が変化しつつある。最近の著作権法改正で、違法動画のダウンロード行為の禁止は、可罰化は見送られているが、将来的可罰化はありうるので、ネットの刑事規制の「厳罰化」への布石であろう。もっとも改正法は、かつて違法ないしグレーゾーンといわれた検索エンジンのキャッシュ保存(複製)を適法化もしている。技術の後追いとはいえ、明文化していくことは重要である。
次回は今はやりの電子書籍の「自炊」業者の違法性の問題について考察したい。