専門家の基本と応用
よく初見のお客さんからいわれることは、「先生は専門は民事ですか刑事ですか」という質問である。このようなブログを書いていると「刑事専門弁護士」のように思われるが、私は、実際に刑事事件しか仕事をしないという意味での「刑事専門弁護士」ではないし、日本の多くの弁護士も、刑事事件など特定の分野しか受けない弁護士ではない。日本の多くの弁護士は、いわゆる一般民事(貸金請求、離婚等家事事件、売買代金請求、賃料請求、債務整理、破産倒産事件、裁判外の契約交渉、労働事件等)を扱う。一般民事とは別のカテゴリーとして、企業法務(企業内の総務における法律が拘わるものや株主総会対策等。企業内部に雇われる企業内弁護士もこの一種か)、外国企業との契約交渉等渉外事件などがある。また、特定の分野(特許等の知的財産、破産管財等)を中心に行う専門事務所(これが世間一般にイメージする専門弁護士であろう)もあるが、専門分野しか扱わないという意味での専門弁護士事務所は少数であろう。
私の継続中の案件の9割以上は一般民事であるし、これも日本の弁護士の平均といってもよいのではないか。ただ、個人としての刑事事件受理経験数や関心どころは、ちょっと違うかもしれないが。
そうすると、確かに専門分野ないし関心分野の広狭はあるにせよ、私が理解している、あるいは目指す弁護士像は、基本的な法律処理能力に優れ、事件、事実を把握し整理した上で、法的解決指針を示し、依頼者等のコミュニケーション能力がある者であり、さらにその人間性、個性から、おのずと専門分野、関心分野が定まり、かつ予断や狭い視野をもたず、弾力性、応用力のある者である。これは世間一般イメージとは違うかもしれないが、同業者なら共感を得ると思うし、こういった意味での弁護士像をアピールしていきたい。
実際に、一部の「専門」弁護士の中には「法廷にたったことがない」「訴訟案件はやらない」とか、「刑事事件はやらない」とかいう人もいたりする。これって果たしてどうなのか。医者でも専門分野に特化しすぎて、単純な症状の原因も治療もわからなくなっていることもあるし、他の分野に口だししない傾向が医療過誤に結びつくこともある。
私が司法修習生のころ、よくこれからは弁護士は専門分野をもたなければいけないというフレーズをよく聴かされ、何が何でも専門弁護士的な風潮があった。しかし、実際に弁護実務についてみると、事件の背後にある事情、人間の感情、思い、経緯等をどう把握し、整理していくか、人をみる目、事実を見る、理解する目こそが、法律家の基本であり、この修練こそがたこつぼ的な専門知識の習得以上に重要であり、「専門」化は、この「基本」の「応用」にすぎないということである。
さて、最初のよくある質問にもどると、私は、「民事も刑事もやりますよ。」と無難に答える。ただし、質問者が修習生など法律をかじった人に対しては、刑事事件こそ、弁護の基本である事実の解明、把握、法的防御を凝縮したものであり、刑法の用語をモディファイするならば、弁護の基本的構成要件であり、さらに弁護士こそが、法律家、法曹の基本的構成要件で検察官、裁判官は修正された構成要件であると「独自の見解」を主張したりする(同じことを検察官の友人に話したら、アメリカ的法曹一元的で日本では通用しない、自画自賛過ぎると苦笑されましたが…)。