書評2 団藤重光=伊東乾編 「反骨のコツ 」(2007年 朝日新書)
日本刑法学の重鎮、団藤重光先生の主体性の理論、死刑廃止論の源流である反骨精神について、音楽家伊東氏のインタビューを通じながら語られるエピソード、随想録。90歳を超えても衰えない学問的好奇心と反骨精神には驚くばかりです。あと団藤理論と陽明学の結びつきというのは、初めて知りました。
興味深い点は、裁判員制度と死刑廃止の関係への言及である。出版当時は、まだ裁判員制度が開始される前の話であるが、裁判員に選ばれた一般の人たちが、自ら意思で死刑判決を言い渡せるかどうか、団藤先生が最高裁判事のときにいわれた「人殺し」とい非難される状況は、裁判員も経験することになるのか…
死刑存廃論は、純然たる論理の問題を超えて、被害者である「殺された者、奪われた者の気持ち」、「死刑宣告を受け死刑執行を受けるものの気持ち」、「死刑を宣告する者の気持ち」「死刑を現実に執行する者の気持ち」等といった具体的な死刑事件に直面する当事者の人間性に対して、何とも言えない懊悩をつきつける。一般市民が、裁判員制度を通じて、このことを抽象的な人ごとではなく、具体的な自分のこととして直面することを通じて、真摯に考えざるを得ない場合に、団藤先生の「反骨精神」は、どういう判断をくだすにせよ一つの指針になるのではないでしょうか。
なお、団藤先生の死刑廃止論については、ずばり「死刑廃止論第6版
」(2000年 有斐閣)、法思想としては「法学の基礎第2版
」(2007年 有斐閣)がありますが、学会、研究エピソード、エッセイとしておもしろいのは「わが心の旅路
」「この一筋につらなる
」がおすすめ。団藤先生フアンになることは確実(!)
専門の刑事法関係は、名著「刑法総論綱要第3版」「刑法各論綱要第3版」、「新刑事訴訟法綱要」があるが、新刑事訴訟法綱要は、たぶん絶版で入手困難かもしれません。マニアな私は、15年くらい前に古本屋で入手しましたが、大金積まれても手放せません(笑)