身柄事件の刑事弁護その1 | 刑事弁護人の憂鬱

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被疑者又は被告人が逮捕勾留(起訴後求令起訴による職権勾留の場合を含む)され、身柄が拘束される事件を身柄事件という。これに対し、身柄を拘束せず、任意の捜査を継続する事件を在宅事件という(もちろん、在宅事件から身柄事件に切り替わる場合もあるし、起訴前における身柄事件が在宅事件に切り替わる場合も例外的にある)。

起訴前の逮捕勾留段階は逮捕による留置72時間プラス10日勾留、10日勾留延長(計20日勾留)が法制度上、原則的形態であるが、勾留満期前に釈放されることもある。勾留満期に不起訴処分の場合は、身柄は釈放され、起訴処分の場合(正式裁判、公判請求)、勾留は継続されるが、身柄解放手続きとして、保釈がある。
保釈請求の法律上の要件は、刑事訴訟法上にあるとおりであり、除外事由がなければ認められる権利保釈、特別な事情がある場合にみとめることができる職権保釈(裁量保釈)があるが、法律上の細かい解釈は割愛。

たぶん、刑事弁護実務的ないし一般的な関心としては、

1 よく大きな事件の被告人が高額な保釈金を積んで東京拘置所から釈放されるニュースが報道されたりするとおり、保釈の条件として、保釈保証金を積まなければならないことから、保釈金がいくらかかるか。
2 否認していても保釈がおりるのか
3 保釈請求すれば必ず許可されるのか

であろう。

1については、事件の性質、被告人の資力等を考慮して裁判所が裁量で決めるのものなので、画一的な基準があるわけではない。私が弁護士になった当初は、最低150万円ともいわれていたが、100万円でも保釈が降りる例もあるようであり、普通の事件で100万円から250万円くらいは念頭においたほうがよいであろう。また、財産犯で被害額が大きかったり、社会的地位や財産がある場合は、400万円から500万円くらいみたほうがよい(共犯事件で、主犯格や代表者などは罪状が重いので、保釈金を多くとるのことにより、逃亡と罪障隠滅のおそれを防ぐという意味かもしれない。私の経験上、財産被害2000万円、保釈保証金1000万円で許可が下りた事例がある。)。
また、実際、保釈保証金の金額決定は、保釈裁判官との面接の際の交渉によるところも大きい。
200万円を用意しつつ、150万円という弁護人意見をのべ、裁判官がもう少しあげれませんかという意見に、プラス50万円の200万円で保釈金を許可という例もある。
また、微妙な事案で、検察官からの保釈許可取り消しのための準抗告を防止するため、保釈金を通常より高めに設定するというケースもある。
ちなみに、保釈が許可されるかどうかの感触というのは、保釈面接のときにたいていわかる。保釈金の金額について、裁判官自ら積極的に発言する場合は、許可の方向の心証とみてよい。
逆に、弁護人側の意見をきくだけきいて、あまり自分の意見をのべず、保釈金の話を一切しない場合は、不許可の心証とみてよいであろう。


2については、裁判所(特に東京地裁)は、権利保釈であっても、罪障隠滅のおそれがありとして(4号事由)、なかなか保釈を認めない傾向がある。しかし、否認を理由に保釈が認められないというのは不合理だし(被告人の防御権を訴害し、身柄が解放されたいから虚偽の自白をしてえん罪を引き起こすおそれがある。)、下記の工夫により、保釈がおりるケースもある。他方、自白事件で初犯のケースは、権利保釈は許可がおりやすい傾向がある。

3について
保釈要件とくに権利保釈の要件をみたせば、本来、保釈許可されるのが筋である。ところが、否認事件であるとか、重大事件であるとかは、「罪障隠滅のおそれがある」という理由から、裁判所は、なかなか保釈許可を認めない傾向にある。しかし、抽象的な罪障隠滅のおそれですべて保釈請求を却下するのは全くの不合理である。具体的に考えれば、下記の時期により、罪障隠滅のおそれは変化していく。

ア 起訴後第1回公判前
  検察官立証前であり、否認事件だとなかなか保釈許可がおりない。自白事件でも共犯事件だと同様の傾向がある。

イ 第1回公判検察官立証後
  有罪立証はつくされているので、有罪立証に関する罪障隠滅のおそれはない。

ウ 公判審理終結後
  検察側、弁護側の立証は終わり、あとは判決言い渡しだけが残っていて、罪障隠滅のおそれは同手続きに対しては全くない。

ア、イ、ウの時期になるに従って、保釈請求はとおりやすくなる。よって、刑事弁護的には保釈請求のタイミングは3回あるということである。
最終段階である、ウでも保釈請求を却下する場合もある。しかし、その場合は、抗告(上訴)し、許可を得るまでねばるべきである。経験上、第1審でウの段階で保釈請求し却下され、抗告すると、かなりの確率で、保釈は許可される。

この時期的な問題とともに、最近の裁判員制度の準備のための手続きとして導入された公判前整理手続きで、争点と立証方針を固めて以降、否認事件であっても、保釈請求が通った経験がある。財産犯ということと初犯といった事件の性質も影響を与えたのかもしれないが。