(うなぎの浄瑠璃)「傾城反魂香」(吃又)
今年の六月大歌舞伎(歌舞伎座)で市川中車と市川猿之助が「傾城反魂香」を演じるそうです。「市川中車、6月歌舞伎座「傾城反魂香」で主人公演じる 市川猿之助と夫婦役」(日刊スポーツより)市川中車、6月歌舞伎座「傾城反魂香」で主人公演じる 市川猿之助と夫婦役 - 芸能 : 日刊スポーツ松竹は2日、「六月大歌舞伎」(同2~25日、東京・歌舞伎座)の出演者と演目を発表した。昼の部「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」では、市川中車(香川照之=5… - 日刊スポーツ新聞社のニュースサイト、ニッカンスポーツ・コム(nikkansports.com)www.nikkansports.com「傾城反魂香」は近松門左衛門の作で、文楽(人形浄瑠璃)や歌舞伎で繰り返し演じられてきた人気の演目だそうです。Wikipediaより傾城反魂香 - Wikipediaja.wikipedia.orgこの「傾城反魂香」の中にウナギが登場します。今回の六月大歌舞伎でも演じられる「土佐将監閑居の場」において、主役の絵師又平と妻お徳が絵の師匠である土佐将監を見舞う場面です。又平お徳夫婦はウナギを持参していて、吃音を恥じてしゃべろうとしない又平にかわって妻お徳が次のように口上を述べます。「(前略)急げば廻る瀬田鰻ただいま膳所(ぜぜ)から貰ひまして、練貫(ねりぬき)水の大津酒ゆめ/\しうござりますれども、この春からお仕合せが直って鰻の穴から出るやうに、御世にお出でなされませ。ほんにマアつべこベ/\、と私がいふことばっかし。こちの人のホヽ吃りと、私がしゃべりと、いり合せたらよい頃な、女夫が一組出来ませう。ホヽホヽホヽヽヽヽアヽおはもじや」と笑ひける。(引用元http://hachisuke.my.coocan.jp/yukahon/hangonko.html)「名物の瀬田のウナギを持ってきたので、元気になってウナギが穴から出てくるように家から出て世間に顔を見せてください」と励ますように言っています。「傾城反魂香」は全三幕ありますが、この「土佐将監閑居の場」一幕だけを抽出して演じられることが多く、主役の又平にちなんで「吃又」(どもまた)と呼ばれるそうです。師匠の土佐将監に認めてもらえない又平が、この世の名残りにと石造りの手水鉢に自画像を描くと、又平のあまりの念の強さに自画像は石を貫いて裏側にまで浮かび上がり、それをみた土佐将監に認められるというハッピーエンドな物語です。一方で又平お徳夫婦が土佐将監を見舞う場面では又平の吃音が滑稽に描写されるなど、現代的感覚からするとやや差別的にも思えます。このあたりが現代歌舞伎でどう演じられているか興味があるところです。又平お徳夫婦がウナギを持参しているシーンの画像がないかとネット検索してみたのですが、残念ながら歌舞伎や文楽の画像は見つかりませんでした。見つかったのは石造りの手水鉢に自画像を描くクライマックスが多かったです。(文化デジタルライブラリーより)歌舞伎事典:傾城反魂香|文化デジタルライブラリー初心者を対象とした、歌舞伎用語「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」の解説。www2.ntj.jac.go.jp(ぶん・楽・嬉・モノより)浮世絵には又平お徳夫婦がウナギを持参する場面を描いた作品があるようです。国芳「道化浄瑠璃けいせい反魂香」(うな繫ホームページより)鰻雑学- うな繁www.unasige.com初期の「傾城反魂香」ではウナギが逃げたと云って・あちらこちらを探して慌てる演出があったと言われています。さしずめこの浮世絵のような場面だったのではないでしょうか。ただし、この浮世絵の「逃げるウナギを追う男と、ウナギにびっくりする女」という構図は歌川広景「江戸名所道戯盡 三十 両国米沢町」にそのまま登場するので、舞台の演技をそのまま描写したとは限りません。(制作年は国芳の傾城反魂香のほうが4年早いとされていますが)歌川広景「江戸名所道戯盡 三十 両国米沢町」(うな繁ホームページより)また、以前にも紹介した「浄瑠理町繁花の圖」という浮世絵にも「傾城反魂香」がウナギをからめて描かれています。「浄瑠理町繁花の圖」(国立国会図書館データベースより)画面中央左で「瀬田前 かばやき」という看板をかかげて鰻の蒲焼の屋台を営んでいるのが「傾城反魂香」の又平お徳夫婦です。ただし「浄瑠理町繁花の圖」は浄瑠璃の演目を屋台商として描いた戯画(いわゆるパロディ)なので、「傾城反魂香」のなかで又平お徳夫婦が蒲焼き屋を営んでいたわけではありません。また「瀬田前 かばやき」という看板も「傾城反魂香」の中で「瀬田のウナギ」を又平お徳夫婦が持参したことにちなんでいるので、江戸時代に実際に「瀬田前」という言い方をしたかはわかりません。おそらく「江戸前」をもじったのではないかと推測されます。むしろ「瀬田前 かばやき」の看板が、本来は木枠に紙を貼った行灯式であるところを、「傾城反魂香」のクライマックスシーンにちなんで石造りの手水鉢のように描かれているところが芸が細かいと思います。