旅するウナギ
「旅するウナギ」では「入銀(にゅうぎん)」という言葉を用いて「店が広告料を出して店の名を入れた」浮世絵だと紹介してる。
「ご存じ いづ栄」図版・解説ページ(「旅するウナギ」より)
「入銀」という語を用いた解説部分(「旅するウナギ」より)
しかし「入銀」という言葉をネット検索してみると、異なる解説がなされている。
たとえばコトバンクでは
「入銀
〘名〙
① (江戸時代に用いられた語) =にゅうきん(入金)①
※浮世草子・好色盛衰記(1688)三「外よりは過分の入銀」
② 江戸時代、本の出版に際し、購入希望者が予約金を納めること。また、その金銭。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第三一「治って風桜板下に(ちり)はめて〈友雪〉 入銀の山おのづから雲〈近雪〉」
③ 明治・大正時代、出版界で行なわれた商慣習。版元が、売れ行きを期待した書籍の実物見本とともに入銀帳を取次店に回し、所要部数の記入を求め、版元はこの部数に対しては祝儀として卸正味を安くしたこと。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版
入金
〘名〙
① 金銭を受け取ること。金銭を納め入れること。また、金銭を払い込むこと。入銀。
出典 精選版 日本国語大辞典」
浮世絵に近いところでは「② 江戸時代、本の出版に際し、購入希望者が予約金を納めること。」というのが近いと思われる。この場合の意味は今でいう予約販売に相当するもので、店が宣伝目的で出資することではない。
一方で、店が宣伝目的で出資して黄表紙(江戸時代の絵入り読み物)を作らせたという事例が花咲一男「江戸行商百姿」に紹介されている。(「入銀」という言葉は使われていない)
また江戸の名所を描いた広重の「名所江戸百景」には呉服店大丸屋が紋(ロゴマーク)も大きく描かれたものがあり、国芳の浮世絵には同じ大丸屋の貸し傘を差した人物が描かれている。
(画像は和樂webより)
歌川広重「名所江戸百景 大伝馬町こふく店」 国立国会図書館デジタルコレクション
歌川国芳「東都御厩川岸之図(とうとおうまやがしのず)」 所蔵:東京国立博物館
上記の浮世絵が大丸屋の出資を受けていたかは分からないが、現代にも残る大きな宣伝効果は確かにあるので、同じような描かれ方の浮世絵の中に「店が宣伝目的で出資した」ものがあったとしても不思議ではない。
「入銀」という言葉の意味とは齟齬があるが、「店が宣伝目的で出資した浮世絵」という意味自体は否定できない。