おじいさんは、いつも演奏の前に、音楽の歴史や曲の説明や自分の感じた事を話してくれた。


おじいさんは、聴いている人に、
「あ~ぁそうなんですね」
と関心されたり、
「こんな音楽の先生だったら、音楽の授業も楽しくて好きになってたのにね(笑)」などと言われていた。

私も同感で、人に興味を持たせ、それを伝える事が出来るのは、すごい事だと思う。

おじいさんから教わった事は、たくさんあった。


ある日、母と買い物に出かけた時、キーボードの音がしていたので急いで楽器店へ向かったが、おじいさんの姿はなかった。

私は、楽器店の人に
「すいません。さっきまでここにいたおじいさんは、もう帰られたのですか?」
と聞いてみた。

お店の店長さんらしいその男性は、とても優しい笑顔で
「たぶん今日はもう帰られたんだと思いますよ」
と言うと、
おじいさんは、近所の方で毎日おまごさんといっしょに来ていること、家でキーボードを弾いてると奥さんにうるさがられるから、ここで弾くのが好きだと言ってた事、いつも昼過ぎくらいにいらっしゃるから、その頃なら逢える事を親切に教えてくれた。


でも、それから一度も逢えないまま七年が過ぎた…
私は友達の初美といっしょにおじいさんに近付いて
「すごいですね!リサイタルみたいでしたね」
と声をかけた。

初美も
「すごく感動しました。音楽関係のお仕事はされてないんですか?教えてらっしゃるならぜひ、習いたいです」
と聞いた。

「それね、よく聞かれるんだけどね、『子供に教えて下さい』とか…。私のは自己流だから、習うのなら教室に通った方が良いですよ。教える為に勉強した人は、やっぱり教え方がすごく上手ですからね」
と言って、
今は、引退したが○○会社の会長をしてると話してくれた。
私たちは、あまりに有名な会社だったのでビックリ瀨して、
「え~っ、すごい!○○会社の?それも会長さんなんですか?」
と声を揃えて言った。

おじいさんは笑いながら
「そんなに驚かなくても…会長なんて、ただ名前だけですよ。引退した普通のおじいさんです」
と謙遜されたが、わたしらの驚きはしばらく続いた。
なにより、父の取引き先の会社だったから驚きも2倍だった。
私は、その事をおじいさんに伝えると
「そうなんですね。お父さんが○○会社に…それはそれは偶然ですね!お嬢さんと、こんな形で出会うなんてね。縁って不思議ですね」
と言って
若い頃の話をしてくれた。
ピアノが大好きで、プロになるために上京したこと。
貧しくて、プロになれなかった事。
ピアノやオルガンしかなかった時代にキーボードが世の中に出てきて、衝撃をうけた事など…

今まで謎だったおじいさんの事が少しわかってうれしかった。



あれから、二・三か月過ぎ、おじいさんには 何度か逢えていろんな話が出来たが、母と来る時だけおじいさんはいなかった。

おじいさんも、
母に逢うのを楽しみにしてくれていたが、タイミングが逢わなくて一度も逢えずにいた。



ある日、友達とランチに行ったとき、

その話をしてみた。


彼女は、とても興味深く聞いていた。


「ねぇ、今から行ってみない?以外に逢えるかもよ」

と彼女に言われ、 二人でショッピングモールへ・・・


モールに着いて、耳を澄ませ楽器売り場へ向かった。

キーボードの音がしている・・・


「いるんじゃない?」

「いるね!!!」

と二人で顔を見合わせて、ダッシュニコニコ


「いたいたっ!!」


おじいさんの周りには、人が集まっていた。

おじいさんは、私に気づくと

「おっ、ひさしぶりだね。今日はお友達といっしょなんですね」

と言って、あいさつしてくれた。


「今日は、お客さんがいっぱいですね。」

「うん、みなさんにお聞かせできる様なものじゃないんだけどね」

「いやいや、すばらしいです。人を引き寄せる力ってすごいと思います」

と私が言うと、周りの人達も。大きくうなずいていた。

知らない人たちなのに、みんなで心が通じ合ったような不思議な空間。

心地良い、あたたかさで包まれている感じだった。


おじいさんは、

「みなさんビートルズってご存知ですか?

解散後にそれぞれが個人で活動を始めたんですが・・・

ジョンレノンのイマジンって曲を弾きます」

と言って演奏を始めた。

切ないメロディーを聞きながら

涙を浮かべている人、

口の口角をずっとあげて微笑んでいる人

みんな、それぞれの思い出に浸っているみたいだった。


どんどん人が集まって来て

演奏後、割れんばかりの拍手!


おじいさんは、周りを見回して

「これはこれは・・・すごいね!」とビックリしていた。