国立西洋美術館HP
ロダンの「地獄の門」
ユベール・ロベール(Hubert Robert, 1733-1808)は18世紀フランスの画家です。「廃墟のロベール」と呼ばれるほど、古代地中海世界の風景を頻繁に描きました。しかし、彼は古典主義とは違うようです。神話や歴史などの物語絵画はほとんどありません。彼が描くのは、古代の「遺跡」またはその廃墟なのです。
彼の描く世界は独特です。若いときにイタリアで絵画を学び、ローマやナポリの古代遺跡を 熱心に写生しました。フランスに帰ってからも古代の遺跡を描き続けました。それは実際の光景とは限りません。彼は空想の古代と同時代の生活とを一つの画面 に描きます。それは、見る者に不思議な調和と安らぎを与えます。
古代遺跡(像の前の娘たち)(左)
空想のローマ景観(右)

18世紀西洋の人々にとって、古代ギリシアや古代ローマという「古典古代(Classical Antiquity)」は憧れの対象でした。イタリアでは古代ローマの遺跡発掘がブームになり、フランスやドイツ・オーストリアでは古代遺跡の模造庭園まで現れます。ベルサイユにもシェーンブルンにも朽ち果てたアーチや人工の洞窟(グロッタ)が作られます。
ピエール・パテル作 遺跡と羊飼いのある風景(上)
ジョセフ・ヴェルネ作 夏の夕べ(イタリア)(下)
ロベールは、そうした人工の遺跡を含めて、自然庭園のデザインでも活躍します。「国王の庭園デザイナー」として成功します。
古代ローマの遺跡のなかで生活する市井の人々・・・彼の絵はなにやら示唆的です。西洋の古典古代は空気のように生活の環境や背景になっていました。おそらく、市民の心のどこかに「模範としての古代」があります。それは、キリスト教以前の古代です。
私たち日本人にとってそうした「古典古代」にあたるものを仮に尋ねてみるなら、本居宣長の「やまとごころ」のような仏教以前の古代が思い浮かびます。
このあたりの詳細は専門の先生にお任せした方がよいでしょうね。でも、神社や寺院、また古代の墳墓のなかで、例えば洗濯とか水浴びとかはふつうできません。これらは「神聖」な場所で、世俗の日常とは当然距離があります。
ロベールの絵がそのまま現実ではないとしても、私たちの古代が西洋のような開かれたものかどうか考えてみる必要はありそうです。
もちろん、遺跡で遊ぶことだけが古代に親しむことではありません。ただ、もっと日本の神話と古代に愛着が持てるような象徴的な空間はないのかなあと、西洋の絵画を見て思ってしまいました。古代ギリシアの「アルカディア」のような。宮崎の高千穂なんかそうかなあ。
上野は花がいっぱいです。
期間は、2012年3月6日(火)~5月20日(日)です。




