私たちがやっている手術のルーツ、肛門診療の根底にある思想を知りたくて、自分の目で見て確かめたかったので、思い切って2週間、自分の診療を休んで東京に行きました。
同業者の間では「社保」とか「社保中」と言われ、知らない人はいない、押しも押されもせぬ、肛門科では力のある有名な施設です。
だから日本全国からたくさんの患者さんが集まってきます。
手に負えないような難しい症例も紹介で送られてきたりしています。
その中には不適切な肛門手術による後遺症で悩む人も来られているわけです。
私が院長(私の主人)の師匠であるS先生の外来に付いたときのことです。
どこかの肛門科で痔の手術を受けてからオシリが変形してしまった人や、オシリのしまりが悪くなってしまった人、逆に肛門が狭くなってしまって便が出せなくなってしまった人、何度も痔瘻の手術を受けたけど完治しない人など、不適切な肛門手術による後遺症で悩む患者さんがたくさん来られてました。
患者さんの中には前医で受けた手術についての説明を求める人や、手術を受けたことをひどく後悔している人などもいました。
前医でやった手術なのに、S先生に文句を言う人までいました(;。;)
だけどS先生は前医のやった手術については一切触れず、これからの治療の話だけ患者さんにされていたんです。
前医の手術についての説明を求めていた患者さんは、最初は納得がいかない様子でしたが、
「過去に受けた治療のことを今から話しても何の利益も無いでしょ。それよりも、これからどうすればいいのか、何が出来るのか考えましょう。今のつらい症状が良くなればいいわけでしょ?」
って、優しいまなざしで声を荒げることなく話されていました。
診察が終わってからS先生に訊いたんです。
「どうして前の手術のことを言われないんですか?だって明らかに前の手術が悪いのに・・・。」
って私が尋ねると、S先生はやさしく
「だってさ、そんなこと言っても患者は幸せにならないだろ?本人だってイヤと言うほど分かってんだから。前の手術が悪かったって。正しい診断を伝えることが患者の幸せとは限らないよ。自分の正義を主張するよりも患者の幸せが最優先だからね。」
と言われ、はっとすると同時に、そんなS先生にべったり付いて勉強した主人だからこそ、今の診療があるのだと、思想の神髄を見た思いがしました。
自分の未熟さを自覚すると共に、今までの自分の診療を猛省したことを今でも鮮明に覚えています。
診療所のセラピードッグ「ラブ」
犬の躾も飼い主の方針で変わります
どんな犬に育てたいか?
それによって「正しいこと」が違ってきます
犬も人間も幸せになるような躾がいいですね(*^_^*)
犬の躾も飼い主の方針で変わります
どんな犬に育てたいか?
それによって「正しいこと」が違ってきます
犬も人間も幸せになるような躾がいいですね(*^_^*)
それまでの私は「医学的に正しいこと」を患者さんに説明するのが良心的だと考えていました。
だから包み隠さず診断を伝えていました。
でも気付いたんです。
「正しさは人を傷付けることがある」って。
私は今まで「患者さんの幸せ」よりも「自分の正義」のほうを大事にしてたんじゃないかって。
いくら診断や治療が正しくても、患者さんが幸せにならなければ意味がないと。
それからは治療のゴールを考えるようになりました。
患者さんの幸せを目指して、患者さんの笑顔を目標に何をすべきか考えるようになりました。
不適切な手術を受けてしまって後悔している患者さんに、「その手術は受けるべきじゃなかった」と言っても、手術を受けたという事実が無くなるわけでもないし、過去を否定することになってしまいます。
ある意味、患者さんを否定することになってしまうんです。
もちろん、やり直しの手術が必要な場合は、きちんと状況を説明しなければならないこともあります。
ですが、受けたことに対して、それを否定したり責めたりしないように気を付けています。
受けてしまったと言うことも、ある意味、それはそれで良かったのだと思うんです。
それよりも、これからどうするか、何が出来るか、一生懸命考えます
過去を振り返って分析することには、あまり意味がありません。
それでは誰も幸せになれないからです。
過去に受けた治療も含めて、患者さんを丸ごと受け入れるように努力しています。
それでも私はまだまだ人間的にも医者としても未熟者なので、ひどい手術の後遺症で悩んでいる患者さんを見たら、そんな手術をした医者に憤りを感じたり、電話で怒鳴り込んでやろうか・・・と思ったり、自分の正義を振りかざし、成敗しようとしてしまうことがありました^_^;
(ん?今もある? だいぶ減りましたよ^_^; 八つ当たりされてる主人がかわいそう?)
でも、そんなことしても「自分の怒りを発散させた」というだけで、患者さんの利益には何もなりません(-_-;)
それでは前に進めません。
過去に向かって吠えるよりも、将来に向かって進もうよ
って自分で自分の背中を押すようにしています。
少しでも師匠に近づけるように日々、精進したいと思います。
「正しいこと=幸せ」ではない。
正しさは人を傷付けることがある。
自分の正義よりも患者さんの幸せを大切に診療をしたいと思います。