先生が手術したかったんとちゃう? | みのり先生の診察室

みのり先生の診察室

5万人以上の「オシリ」を診察してきた
肛門科専門医の女医がつづる
お尻で悩める人へのメッセージ

今から10年以上前のことでしょうか。

診察をして患者さんに

「特に異常ないですね。小さなイボ痔がありますが、無症状ですし、手術もいらないと思いますよ。」

とお伝えしたら

「えっ?!そんなことないはずです。痔瘻ありませんか?あるはずなんです!」

とすごく不安そうな顔をされたんです。

あまりにも患者さんが痔瘻があるはずだ!って主張するので、念のため、もう一度診察することにしました。

でも、どんなに丁寧に診ても痔瘻はない。

なんと言われようと無いものは無いっ!

「何度、丁寧に診ても無いものは無いですよ。」

と再度伝えました。

そしたら・・・

「どういうことなの・・・?なんで・・・?痔瘻で手術って言われたのに・・・。昨日行った肛門科では痔瘻で今スグに手術をしないと大変なことになるって言われたのに・・・。手術の申し込みまでしてきたのに・・・。同じオシリなのに、なんでこんなに診断や先生が言うことが違うの・・・?」

とうろたえて、半分、パニック状態になってしまいました(;。;)

昨日、別の肛門科を受診されて、セカンドオピニオンで私の外来を受診されていたようです。

セカンドオピニオンだって最初に言われる患者さんばかりではありません。

違う肛門科にかかっていることを黙っている人も多いと思います。

この患者さんも私が診断を伝えてからセカンドオピニオンであることを打ち明けられました。

別の肛門科にかかって痔瘻で手術と言われ、手術の申し込みをしておられたんです。

私は自分の診断には自信がありましたが、あまりにも患者さんが不安そうなので

「もし良ければうちの病院には肛門科の専門医・指導医が二人いますが、その二人の診察を受けますか?」

と尋ねたら、是非受けたいと言われたので、院長(私の主人)と顧問の先生(私たちの師匠)にも診察してもらうことになりました。

結果は・・・

二人とも「痔瘻はない。手術の必要はない。」という診断結果。

興奮が落ち着いてから患者さんと色々とお話しました。

患者さんが

「前の先生は、どうして痔瘻で手術って言ったんですか?」

って尋ねられたんです。

私がモゴモゴと答えにくそうにしてごまかしていると、横から師匠が

「先生が手術したかったんとちゃうか~?」

とバッサリ・・・(^0^;)

えっ・・・
それ、言っちゃっていいの・・・?


まだまだ駆け出しの肛門科医だった私は横で・・・フリーズして絶句してしまいました(-_-;)

そ、そ、そんなこと言っていいの?!
トラブルにならないの・・・???(>_<)


って思って冷や冷やして患者さんを見ていたら、顔色が急に変わって

「そうですか・・・。なんだか胸のつかえが取れてスッキリしました!」

と笑顔で帰って行かれたんです^_^;

blog199

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数日後にその患者さんがまた来られました。

「色々と冷静になって考えて手術をキャンセルしました。前の先生の所にも行きましたが、納得のいく説明が無かったんです。別に今、何も困った症状もないし、わざわざ手術を受ける必要性も感じなかったんです。そして先生方の方が信じられる、信じようって思ったんです。本当にここに来て良かった!ありがとうございました!」

って、わざわざお礼を言いに来られたんです(*^_^*)

トラブルにならなくて良かった・・・

とホッと胸をなで下ろしたのを今でも鮮明に覚えていますね^_^;

私もまだまだ青かったですから^_^;

医者の世界では暗黙のマナーというか、ルールというか、

前医を悪く言わない

というのがありまして、前医をかばうことも多々あるわけです^_^;

私もたくさんいろんな先生にかばってもらったと思いますし、

悪気があって患者さんに害を及ぼす医者なんていないと思ってましたから

セカンドオピニオンの患者さんには神経をとがらせて気を遣いましたね^_^;

前の先生を否定もせず、悪くも言わず、どうやって自分の診断や意見を伝えようか・・・

と、それはそれは悩んだものです。

そのせいで説明がしどろもどろになって汗タラタラ・・・ってこともありましたね^_^;

でもね・・・

私の診断や方針が前の先生の影響を受けるのはおかしいと思うようになったんです。

セカンドオピニオンであることを黙っている患者さんだっているわけですよ。

前の先生の診断を聞いて自分の診断が変わるって、それって私が詐欺師みたいじゃないですか^_^;

どう転んでも無いものは無いし、要らない手術は要らないんですよ。

だから、堂々と自信を持って自分の診断や意見を伝えるようになりました。

決して前の先生を否定したり悪く言ったりせずに、ただ、自分の意見を伝えるんです。

「私は」「こう診断する」「こう思う」

って、「私」っていう主語を強調するんです。

前の先生じゃなくて「私は」どうなのかって言うことを伝える。

他の先生のことは知らない、分からない。

でも私はこうですよ」って伝えるようにしました。

その上で何を信じるのかは患者さんに選んでもらうんです。

自分の意見を押し付けずに選んでもらうんです。

あなたはどうしたいのか?

を患者さんに問いかけて考えてもらうんです。

それで前の先生を選んでもいいんです。

その人が幸せなら。

「正しいかどうか」ではなく、「患者さんが幸せかどうか」の方が大切ですから(*^_^*)

最近になってようやく、二人の師匠から教えられたことが分かるようになってきました。

師匠にはまだまだ追いつけません。

医者としても、人間的にも私はまだまだ未熟者です。

でも日々、患者さんを大切にして一生懸命、関わっていこうと思います。