ヘタクソが何度も切る方が儲かる仕組み | みのり先生の診察室

みのり先生の診察室

5万人以上の「オシリ」を診察してきた
肛門科専門医の女医がつづる
お尻で悩める人へのメッセージ

だいぶ前のことです。

膿がたまって何度も切開して膿を出しているけど治らない・・・

という患者さんが来られました。

うちの診療所は自由診療。

切開して膿を出すのも費用がかかります。

だから「スグに切った方がいい痔・肛門周囲膿瘍」の場合でも、その場で切らず、病気の説明と処置の必要性を患者さんに詳しく説明し、必ず事前にどれくらいの費用がかかるのかを具体的にご説明しています。

その上で、うちの診療所で切開するかどうかを決めてもらっています。

その患者さんは保険の効く肛門科で1ヶ月の間に5~6回も切開を受けておられました。

切開を受けた後は毎日、消毒と詰め込んだガーゼ交換に通って、ほぼ1ヶ月くらい毎日通院されてました。

費用の説明をすると

「分かりました。ここで受けます!だってね、保険診療だと安いけど、これだけ何度も切開受けて毎日通ってたら、もう既にそれ以上の費用を払ってます。ここで受けた方が結局安いです。」

と言って切開を受けられました。

見ると、やっぱり傷が小さいんです。

5ミリくらいの切開創しかありません。

傷が小さいので十分に膿が出せず、中に膿がまだ溜まって腫れてました。

切開も浅かったようで、もう少し奥にも膿のたまりがあり、切開するとお湯のみ1杯くらいの膿がドバッと出てきました。

切開した後、30分くらい休憩してからお帰り頂くのですが、

「全然痛くない!座れる~!」

と言って普通に歩いて帰られました(*^_^*)

そう。膿がたまってる人は歩き方もいつもと違っていることが多いです。

治療前と治療後ですごく違いが出る疾患ですね^_^;

歩くことも出来ず、家族に両脇を抱えられて来院された人が、切って膿を出したらニコニコ笑顔でスタスタ歩いて帰っていくということもしばしば^_^;

受付スタッフがその豹変ぶりに驚くほどです。

でも、もちろん、うまく膿が出せなかったり、1回の切開では深い膿のたまりに到達できずに何度か切開させて頂くことがあります。

特に深部痔瘻の場合は本当に切開が難しいです。

そのような場合、保険診療では切るたびにお金がかかります。

つまり、1回切るよりも、何度も切る方が医療機関は儲かるのです。

1週間に1回の通院にするよりも毎日来てもらう方が儲かるのです。

日本の肛門病学の立役者である故、隅越幸男先生が生前、よくおっしゃっていたように「下手ほど儲かるしくみが保険診療」なんです。

「腕の良い肛門科医が1回で治すよりも、ヘタクソが何度もやる方が儲かるなんておかしいよね」

って良くおっしゃっていたそうです。

「だからね。保険診療はマルメにすべきだと思うよ。この病気が完治するまでいくら!って決めるの。完治させるまでに何度手術しても、どんな薬を出しても料金は同じっていうふうにすれば無駄な手術が減るよね。1回切ろうが5回切ろうが患者さんの負担する金額は同じだから、患者さんにとってもいいよね。」

と。

だからうちの手術代は完治するまでの料金にしています。

1回の手術でうまくいかなかった場合、手直しの処置をしたり、場合によったらもう一度やり直しの手術をすることだってまれにあります。

ですが手術代はいただきません。

1回で治せないのはこちらの責任です。

だから完治するまで何度やろうが料金はいただかない仕組みにしました。

blog132

診療所のセラピードッグ「ラブ」
犬は皮下脂肪の付く場所が人間と異なり、
背骨の周りと腰に付きます。
太ると足腰に負担がかかり散歩を嫌うようになります。
(日本アニマルセラピー協会)



今回の患者さんは1ヶ月の間に5回切開排膿を受けておられましたが、毎回お金を払っているわけです。

1回に支払う金額は数千円かもしれませんが、それが5回となると数万円になります。

そして毎日の通院費もかかります。

1ヶ月の間に支払った金額は、うちの診療所で支払った金額よりもはるかに高くなっていました。

「これだったら結局、自費の方が安いです^_^;」

って患者さんも苦笑いしておられました。


もちろん、一番患者さんにとって安くてお得なのは、保険診療で腕の良い肛門科医に切ってもらうことです。

それが一番いいに決まっています。

だけど、肛門科ってい~っぱいあるじゃないですか。

大阪府だけでも5千軒以上あるんです。

肛門の専門医は全国でも300名足らず、大阪だと20名前後ですから、ほとんどが専門外の医師ということになります。

専門外であれば1回で治せなくても仕方ないかな・・・と思いますね。

専門外の医師が1回で治せたら、私たち専門家の存在価値もなくなりますからね^_^;

でも患者さんにとったら大問題。

できれば1回で治したいし、腕の良い専門の先生にかかりたいと思うのが当然でしょう。

でも・・・

どこが専門で、どの先生が腕が良いか分からないですよね(-_-;)

色々調べたり、実際に受診して確かめるしかないですよね(-_-;)

その時に、何度通院しても治らないとか、何回も切られているようであればセカンドオピニオンで他の肛門科を受診するのも良いでしょう。



あなたは何度も切ってませんか?

切った後、ちゃんと楽になってますか?

毎日1ヶ月近くも通院してませんか?